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第十章 内部分裂
「単刀直入に申し上げます。来栖社長の葬儀に、出席していただきたい」
「えっ?」
男たちを室内に招き入れた竜也だったが、その言葉に耳を疑った。
とっさに理紗を見ると、母は不機嫌そうな顔で肩をすくめた。
「まあ、最後まで聞いてあげて」
うん、とうなずき、竜也は男に向き直った。
「しかし、なぜでしょう。私が参列すると、あちらのご家族が不快な思いをされるのでは?」
「その親族として、参列していただきたいのです。堂々と」
全く持って、解らない。
朋が淹れて来てくれたお茶を飲み、心を落ち着けていると、男はさらに畳みかけて来た。
「そして。来栖社長の跡を継ぎ、新しい社長の椅子に座って欲しいのです!」
「はぁ!?」
いや、待って。
ちょっと、待って。
「父さん……、来栖社長には、正妻さんの間に、お子さんがおいででしたよね?」
「来栖 勇生さん、です」
「その勇生さんが、跡継ぎになるのでは? そして、その方が社長に……」
勇生が社長になった方が、いろいろと揉め事を起こさなくて済む。
竜也が跡継ぎの座に収まるとなると、正妻の十和子が黙ってはいないだろう。
余計な争いごとは、避けたい。
それが、竜也の正直な気持ちだった。
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