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第十章・2
だが男は眉間に指を当てた後、続けた。
「確かに正妻の十和子さまは、勇生さまを跡継ぎに、と考えておいでです」
「ですが同時に、クルス・不動産を過去の来栖組に戻そうとも画策しておられるのです」
は、と竜也は思い当たった。
死の間際にある父を見舞った時の、あの言葉。
『私が死ねば、十和子が動くだろう。あいつは、息子の勇生を社長に据えて、組を復活させようと目論んでる』
「わたくしどもは、それを何とか阻止しようと動く人間たちの、一員です」
「どうか、ご協力を!」
困ってしまった竜也は、理紗を見た。
「私は、反対なのよ。だけどこいつら私に、葬儀に出なければ殺す、なんて脅してきて」
だから仕方なく喪服を着て、このマンションへの道案内までしたのだ、と言う。
「こ、殺す、って……」
竜也は、思わず朋の前に体を乗り出し、守るそぶりを見せた。
「お聞きの通りです、竜也さん」
「支度をしてください」
組の復活を阻止する、などと言いながら、この二人も同類だ。
根っこの部分の極道気質は、変わっていないのだ。
竜也は、腹をくくった。
跡継ぎになる気は無いが、まずはこの場をしのがねば、明日を迎えられない。
「解りました。葬儀に出ます」
竜也は、ソファから立ち上がった。
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