56 / 107
第十章・4
葬儀に、という名目だったが、その晩は通夜だった。
竜也や朋、そして理紗が斎場に着いたころには読経は終わり、遅れて来た人間たちが焼香している。
「父さん。病室と変わらないね……」
祭壇の周りには、数えきれないほどの供物が、花が、弔電が供えられている。
湯灌を施してもらったのか、正吾の顔つきはふっくらと張りがあり、穏やかだった。
焼香をし、手を合わせ、竜也は朋の体を支えた。
「大丈夫?」
「う、うぅ……」
嗚咽を漏らす朋をいたわっていると、マンションに現れた二人の男が近づいてきた。
「どうぞ、こちらへ」
「親族の席へ、どうぞ」
いや、あの、と竜也は眉をひそめた。
「連れが、ちょっと苦しそうなので。別室で少し休むわけには、いけませんか?」
二人はやはり顔を見合わせ、小声でやり取りをした後、こちらを向いた。
「承知しました」
「今、部屋を用意させます」
ホッとした竜也だったが、残念ながら話はそれだけでは終わらなかった。
ともだちにシェアしよう!