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第十章・5
部屋は用意する、と男は言った。
だがしかし。
さらなる要求が、待っていた。
「今夜はそちらに、泊っていただきます」
「えっ?」
「親族ですから、通夜は故人と共に過ごしていただきます」
竜也は、頭が痛くなってきた。
これはなかなか、厄介なことになってきた!
だが、今は朋を休ませなくてはならない。
「解りました。だから、早く部屋に案内してください!」
小さいが鋭いその声は、よく通った。
そんな竜也の声に、顔を上げてこちらを見た人間がいる。
「……あれが、風野 竜也?」
「そうよ、勇生さん。あなたの、お兄さま」
ふっ、と勇生は鼻で笑った。
「庶民臭い男」
「だってあの方は、クルス・不動産の単なる一社員ですもの」
通夜の席というのに、二人はくすくすと笑った。
正吾の正妻・十和子と、その息子・勇生。
値踏みするかのように、竜也の姿を眺めていた。
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