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第十一章・5

 ほんの少しだけ考えた後、竜也は朋に穏やかな顔を向けた。  こんな時に言う言葉ではない、かもしれない。  だけど、こんな時だからこそ、言いたい。 「朋。父さんの喪が明けたら、結婚式を挙げたいな」 「えっ」 「式を挙げて、披露宴を開いて。新婚旅行もしたい」  どう? と小首をかしげる竜也に、朋は始め、表情を失くしていた。  だが、じょじょにそれは明るい輝きを持った笑顔に変わり、目には涙が膨らんだ。  うん、うん、と何度も首を縦に振り、声を振り絞った。 「竜也さん、ありがとう……。ありがとう……」  良かった、と竜也は朋の肩を抱き、理紗の方を向いた。 「母さんも、もちろん賛成してくれるよね」 「当たり前じゃない!」  でも、と母は少しだけ不満げだ。 「プロポーズ、婚約指輪を渡すときに、ちゃんと言い直しなさいよね」  お通夜の控室でだなんて、朋くんが可哀想、と言うのだ。 「解ったよ」  竜也は朋に向き直り、その小さな手を取った。  左手の薬指を何度も撫でて、誓った。 「幸せにするよ。必ず」  それは、亡き父への誓いでもあった。

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