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第十二章・3

 実に困った立場に立たされてしまった、と竜也は弱った。  イエスとも、ノーとも言えず、ポーカーフェイスで十和子と対峙していると、勇生が口を開いた。 「ねぇ、君。すっごく可愛いね。何て名前?」  いつの間にやら、勇生は和室の奥まで土足で上がり込み、朋に向かって手を伸ばしている。  だが朋は、茶筒を手に持ったまま、きっぱりと断った。 「教えたくありません」 「何だって?」  いつもどこでも、周囲が自分の意のままに動かないと気が済まない勇生だ。  朋に拒絶され、カッとなって腕を振り上げた。  その姿に、竜也は素早く朋と勇生の間に割って入った。 「彼の名は、真宮 朋。そして、私のパートナーになる人だ!」  声を張った竜也に驚いたのか、勇生は目を円くしたが、すぐに不敵な笑みを作り直した。  おい、とでも言うように、後ろに控えている護衛の者に、顎をしゃくった。 「二人まとめて、痛い目に遭わせてやるよ」  一歩前へ出た護衛たちに、竜也は身構えた。  朋だけは、守り抜くつもりだった。

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