66 / 107
第十二章・4
「行きますよ、勇生さん」
十和子の甲高い声が響き、緊張した空気は霧散した。
内心、ホッとした竜也だ。
数人がかりで来られると、立ちまわるのに難儀だ。
舌打ちをし、勇生はポケットに手を入れた。
「またね。朋ちゃん」
ぞっとする言葉と笑顔を朋にかけ、ようやく後ろを向いた勇生。
朋は、その後頭部に茶筒を投げつけてやりたかったが、我慢した。
「いいですね、竜也さん。社長の座は、勇生さんのものですから」
十和子が勝ち誇ったような声を残し、周囲を引き連れて部屋から出て行った。
「大丈夫か、朋」
「僕は、平気です」
二人が寄り添い、まだ少し早く打っている心臓を落ち着かせていると、浴室のドアが開いた。
ほかほかと湯上りの理紗が、その光景を目にして、間の抜けた声を上げた。
「あら? お二人さん、もしかして良い所だった? もう少し、長湯すればよかったかしら!」
「母さん、呑気だなぁ」
呆れながらも、理紗の言葉でようやく日常が戻って来た心地だ。
竜也は、十和子と勇生がこの部屋に訪ねてきたことを、話した。
ともだちにシェアしよう!