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第十二章・5

 理紗は竜也の話を黙って聞いていたが、最後に溜息をついた。 「……それだけ?」 「え? ああ、うん」  まったく、と洗い髪を掻き上げ、理紗はつぶやいた。 「正吾さんが、亡くなったばかりなのに……」  朋はその言葉に、深くうなずいた。  どうして。  どうして、誰もかれもが、相続に必死なんだろう。  故人を悼む心は、無いのだろうか。  そんな朋に、竜也は優しく声を掛けた。 「朋。お風呂に入ったら、父さんに会いに行こう」 「えっ?」 「ゆっくり会えるのは、今夜までだよ。明日になったら、もうわずかな時間しか顔が見られない」  告別式の最後に、花を手向ける時。  そして火葬の直前に、また一瞬だけ顔を合わせる。  後は、お骨となった正吾にしか、会えないのだ。

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