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第十三章・2

 後は母さんに任せなさい、と理紗が言う。 「朋くんが、心配だわ。竜也、もうこのホテルでいいから、一室借りて休ませてあげて」 「ありがとう、母さん」  しかし、立ち上がり、席を離れようとしたその時、竜也は行く手を阻まれた。 「離席は、ご遠慮願います」  きちんとした身なりの紳士だが、その声は厳しいものだった。  見たことのない、顔だ。  人の顔を覚えることは得意な竜也だが、この男性は初見だった。  不審な表情の竜也を察したのか、男性は名刺を差し出した。 「私は、故・来栖 正吾さんの専属弁護士です」  確かに名刺には、所属事務所の社名と、彼の肩書がある。 「ミドリ法律事務所、弁護士・中西 始(なかにし はじめ)……」 「これより、来栖さんの遺書を公開します。あなたには、絶対に聞いていていただかないと」  しかし、と竜也は困った。  中西の話は、分かる。  だが今は、朋の体調が心配なのだ。

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