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第十三章・3

「竜也、残りなさい。朋くんは、母さんが部屋に連れて行くから」  理紗がそう言い、朋の肩に優しく手を乗せた。  しかし中西は、それにも難色を示した。 「風野さんにも、同席していただきたいのですが」 「すぐに、戻ってきます。病人なのよ? このまま放っては、おけません」  よろめく朋に寄り添い、理紗はゆっくりと会場を出て行った。  それを確認した中西は、理紗が戻ってくるのをしばらく待っていた。  だが、なかなか姿を見せない彼女を諦めると、ひな壇に上がりマイクを手にした。 「皆様。ご着席願います」  席に着き、鎮まった人々は、今から正吾の遺書を公開する、との中西の言葉に驚いた。  通常、そういったことは、身内の中でのみ執り行われるのでは!?  その疑問に、中西は淡々と述べた。 「これは、亡くなった来栖 正吾さんのご意向であります」  密室で、内々だけで処理すると、不正や改変が行われる恐れがある。  それを未然に防ぐために、この場にいる皆様方に公表し、立会人になっていただきたい。 「来栖さんは、皆様に証人となっていただきたいと、願ったのです」  その説明に、会場の人間は皆納得した。  唇を噛む少数派は、いたが。 「お母さま。これは一体……?」 「正吾さん、こんな小細工を!」  勇生と十和子、そして彼らを支持する人間たちは、この趣向に少々焦った。  もし、万が一。  竜也を次期社長にする、との遺言だったら、それを揉み消すには一苦労いる。  会場の全員が注目する中、遺書は公表された。

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