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第十三章・4
「朋くん、歩ける? 大丈夫?」
「ごめんなさい、お母さん。少しだけ、休みます……」
その頃、理紗と朋は、ホテルのフロント近くにいた。
休憩スペースに置いてあるソファに腰掛け、ぐったりと姿勢を崩す朋だ。
「困ったわね。部屋だけでも、先に取ろうかしら」
しかし、朋をこのまま一人にするのは心配だ。
いっそ、救急車を。
そこまで考え始めた理紗の前に、数名の男たちが現れた。
「風野 理紗さまと、真宮 朋さま、ですね?」
「……あなたたちは?」
「ご心配なく。我々は、当ホテルの医療スタッフです」
そういえば、彼らの中には白衣姿の人間もいる。
理紗は、緊張の糸がいっぺんに解けた。
「お医者さん、なんですね!? 早く、朋くんを診てあげて!」
「では、医務室で診察します」
男たちは、朋を軽々と抱き上げると、ホテル奥に向かって進み始めた。
「風野さまは、どうぞ会場へお戻りください。遺言状の開示が、始まっております」
「ありがとう」
元来た順路を小走りで急ぐ理紗の後姿を、白衣の男は見送った。
そして、角を曲がって見えなくなったところで、にやりと笑った。
白衣を脱ぎ捨て、小型の端末に向かって、囁く。
「真宮 朋の確保に、成功しました」
男たちは、十和子と勇生が放った人間だったのだ。
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