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第十三章・5

   慌ただしく動く周囲を、朋はぼんやりと感じていた。 (僕は、一体?)  体を動かすのも、辛い。  誰かが、その体を抱いて運んでいる。  少し前の会話を、ようやく思い出した。 『……あなたたちは?』 『ご心配なく。我々は、当ホテルの医療スタッフです』  ああ、良かった。  お医者様なら、僕を診てくれる……。  ところが、朋はホテルを出て、自動車に乗せられ始めた。 「おい。急げ」 「もっと奥へ、詰めろ」  医者にしては、言葉遣いが乱暴だ。 「あなたたちは、一体……?」  力を振り絞ってようやく出した朋の声に、男たちは焦った。 「こいつ、意識があるぞ」 「まずいな。仕方がない」  この人たちは、医者じゃない。  そうはっきりと悟った時、朋の目が布で覆われた。  目隠しを、されたのだ。  朋は、敵の手に落ちてしまった。  そのままどこかへ、運ばれてしまった。

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