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第十四章・5
「う……」
朋が目覚めると、そこはベッドの上だった。
正吾が与えてくれたマンションのものには劣るが、上質な寝心地だ。
だが、目に見える光景は、見知らない。
家具類は装飾が盛られ過ぎて、機能美を愛する朋の趣味には合わなかった。
「僕は、一体……?」
身じろぎすると、腕が動かない。
「え?」
ガチャガチャと、金属質の音が響くだけだ。
朋は、後ろ手に手錠を掛けられていた。
「目が覚めたか」
声のする方に首だけ向けると、そこにはスーツ姿の男たちが数名いた。
そして、彼らを割って一歩前に進んできた男。
彼にだけは、見覚えがある。
勇生だ。
「具合はどう? 朋ちゃん」
猫なで声に、朋は身震いした。
勇生はベッドに腰掛け、朋に顔を近づけた。
「人一人死んで、具合が悪くなるなんて。朋ちゃんは、繊細なんだね」
「人一人、だなんて。正吾さんは、あなたのお父さんでしょう?」
「ま、確かにそうだけど。あんな遺書を残すような男は、もはや父親じゃないね」
あまりに情の薄い、勇生の言葉だ。
だが、と彼は朋の髪に触れた。
「すぐに、全てを俺のものにしてみせる」
竜也に吐いた言葉を、今一度朋に宣言した。
冷たい、地の底から響いてくるような声に、朋は思わず瞼をきつく閉じた。
(竜也さん……!)
声にならない声で、愛しい人の名を、叫んだ。
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