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第十五章・3

『やあ、竜也』 「勇生くんか?」  お兄様、と茶化して呼んでいた勇生が、竜也を呼び捨てている。  不穏な響きを、兄は感じ取った。  勇生は、合間に笑いを交えながら、竜也に布告してきた。 『社長の椅子は、辞退しなよ。でないと、大事なものを、失うことになるよ?』 「どういう意味だ? 大事なもの、って。一体、何だ」 『可愛い朋ちゃん、すぐそばで眠ってるよぉ』 「……! 朋が、そこにいるのか!?」  まさか、勇生が。  弟が、誘拐犯だったなんて!  戦慄する竜也に、勇生は軽い調子で喋る。 『俺は、欲しいものは必ず手にする男なんだ。クルス・不動産は、全部欲しい』 「朋に、指一本でも触れてみろ。ただじゃ済まないぞ!」  笑い声を最後に、勇生は通話を切ってしまった。

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