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第十六章 取引
「事態は一刻を争います」
手遅れになると、被害者は最悪で命を失う、と竜也は警察を急かした。
その言葉に、事情徴収をしながら、片方ではすぐに監視カメラのデータをチェックする、警察だ。
すぐに、朋を連れ去った人間が特定された。
「容疑者は、ホテルに車を横付けし、被害者を連れ去った模様です」
「ナンバーは、解りますか?」
「すでに解析し、行方を追っております」
竜也は、迅速な警察の力に感謝した。
後は、その自動車の行き先を掴むだけだ。
今は動けない自分の無力さを呪うが、時が来れば最前線に身を投じる覚悟の、竜也だ。
彼は、指揮を執っている警部に、歩み寄った。
「朋の。被害者の居場所が解ったら、私に行かせてください」
「風野さんが?」
「そこには、私の弟である、来栖 勇生がいるはずです」
竜也と勇生の間に、相続のいざこざが起きていることは、事情徴収で掌握済みだ。
警部は、それを承知で、竜也を止めた。
「危険です。殺意の矛先が、あなたに向くかもしれません」
「まず、そうでしょうね」
うなずく竜也に、警部は奇妙な落ち着きを感じた。
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