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第十八章 取り戻した日常

 午後五時。  定時だ。  竜也は、革張りの重厚な椅子から立ち上がった。  受話器を取り、内線を繋ぐ。  すぐに、副社長の秋山がコールに応じた。 『はい、秋山です』 「五時になりましたから、これで帰ります」 『どうぞ。お気をつけて、お帰りください』 「ありがとう。お疲れ様」 『お疲れ様です』  竜也は、軽快に社長室から出た。  社員駐車場に停めてある車に乗り込むと、私用のスマホを手にした。 「もしもし。朋?」 『竜也さん。お仕事、終わったんですか?』 「うん。今から、帰るよ。何か途中で、買ってくるもの、ある?」 『僕、甘いものが食べたいです』 「いいね。楽しみに待ってて」  通話を終え、竜也はエンジンをかけた。  あの忌まわしい事件から、三ヶ月ほどが過ぎていた。

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