96 / 107
第十八章 取り戻した日常
午後五時。
定時だ。
竜也は、革張りの重厚な椅子から立ち上がった。
受話器を取り、内線を繋ぐ。
すぐに、副社長の秋山がコールに応じた。
『はい、秋山です』
「五時になりましたから、これで帰ります」
『どうぞ。お気をつけて、お帰りください』
「ありがとう。お疲れ様」
『お疲れ様です』
竜也は、軽快に社長室から出た。
社員駐車場に停めてある車に乗り込むと、私用のスマホを手にした。
「もしもし。朋?」
『竜也さん。お仕事、終わったんですか?』
「うん。今から、帰るよ。何か途中で、買ってくるもの、ある?」
『僕、甘いものが食べたいです』
「いいね。楽しみに待ってて」
通話を終え、竜也はエンジンをかけた。
あの忌まわしい事件から、三ヶ月ほどが過ぎていた。
ともだちにシェアしよう!