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第十八章・3
「ただいま」
「おかえりなさい」
マンションに帰るなり、竜也は手にした小箱を目の高さまで持ち上げた。
「甘いもの、買って来たよ。カフェ・白樺の、チーズケーキ!」
「やったぁ!」
竜也から小箱を受け取り、朋はいそいそとキッチンへ向かった。
大切に、ケーキをフリッジに納める。
少し遅れて、竜也がネクタイを緩めながらキッチンへと入って来た。
「いい匂いが、するなぁ」
「今夜は、酢豚に挑戦してみました」
でも、と朋は少し恥ずかし気だ。
「レトルトに、お野菜とお肉を少し混ぜただけです」
「いやいや、すごい進歩だ」
自炊の苦手だった朋が、包丁を握る日が来ようとは。
不揃いなニンジンやキュウリだったが、竜也はひどく喜んだ。
彼が、自分のためにこうやって手間暇かけてくれることが、何よりの御馳走だ。
どんな一流シェフの料理より、嬉しかった。
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