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第4話
◇
翌朝、ハロウィンの準備をしているマスターの元に真っ青な顔をした男、ジャックが入ってきた。
「……どうしました?すみません。まだここは……」
「いないんだ……どこにも。朝起きたら、消えてしまった。何も言わずに」
ジャックはひどく動揺しており、マスターの言葉も入ってないようだった。見るからに慌てて、冷静さを失っている。
「やっと会えたのに……どうして。なぜ……!」
そうしてカウンターの昨日彼が座っていた場所で立ち止まりしばらくうなだれていたが、握っていた手のひらからだした小さな指輪をみて、呟いた。
「指輪だけ置いていってしまうなんて……やっぱり許してはもらえなかったんだな。なんでだなんて俺がいう資格はないか」
「彼がその指輪を?」
「そう。朝起きたら、これだけが彼のいた場所にあったんだ」
「………」
マスターは男からその指輪を受け取り、じっと眺めた。
「これは……マラカイトですね?」
「そうです。魔除けとかいってたけど。結局守ってくれたのかなんなのか……」
「この石には他にも言葉があるんですよ。知ってました?」
そうゆうとマスターは首をかしげるジャックの前で、なにかを作り始めた。
「マスター、朝から酒は…それに今はそれどころじゃなくて……」
「あれは何年前だったかな。あの日もとても寒い日で、お店にはあまり人がいなかった」
「マスター?俺は、昔話を聞いている暇は……」
「そろそろ店じまいをしようかとしていたときに、一人お客さんがきたんです。外は寒いのにコートも着ずに、静かにカウンターの一番端の席に座って、XYZを注文されました」
「…………」
男はマスターが話を辞める気がないことを悟り、仕方なく耳を傾けた。カチャカチャとカクテルを撹拌する音がやけに大きく響く。
「彼は何も言わずにそれを飲んで、そして飲み終わるとでていく。数週間に一回かな。ふらっと現れてはそれを飲んででていく。それがやけに気になって、一度聞いてみたんです。何かあったんですかって。そうしたら、彼は人を探しているんです、って。自分を置いていなくなってしまった、恋人を」
男がはっとしたそこで、カチャリとグラスの置かれた音がした。
「XYZです」
「……」
昨夜、自分が飲んだものだと気づいたが、今は酒を飲むような気分にはなれなかった。マスターはすぐにまた別のシェイカーをだし、ウイスキーとカルヴァドスを注ぎいれはじめた。
「その日からしばらく彼の姿はみかけなくなりました。恋人が見つかったのかなって思ってたんですけどね。次に見たのはその1年後で、ちょうどハロウィンの前夜でした。ちょうど12時だなって思ったころに彼が来たんです。前と同じようにとても青白い顔をして、コートも着ない薄着で。そうして、以前と同じ端の席に座ったんで、いつものXYZを作るか聞くと、首をふり、コープスリバイバーを頼まれました。」
カチャカチャとシェイカーを降っていたマスターの手が止まり、カクテルグラスが鮮やかなワインレッドに染まる。
「コープスリバイバーです」
「…………」
男は、自分の前に置かれた2つのグラスをじっとみつめた。
XYZと、コープスリバイバー?だからなんだというんだ。自分は彼にまた会いたい、それだけだ。こんな話になんの意味があるというのだろう。
ここでこんなに、ゆっくり話をしている暇なんてない。早く、早く彼を見つけなければ。焦りと苛立ちから、いち早くこの店を出ようと立ち上がりドアに向かった瞬間、後ろからマスターの声がした。
「話は最後まで聞いた方がいい。あなたにとってとても大事な話なのだから」
その強い口調に、ドアノブに手をかけたまま男は立ち止まった。
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