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第5話

「……私は彼に探していた人は見つかりましたかとつげました。彼はまだ見つからない。けれど、もういいんです。私は自分にできることをするまでなので。と言いました。そして私に1つお願いをしてきました。自分はこれから年に一度だけここにくる。その間に、もし、自分が探している人が来たなら、どうかここで会えるように手助けをしてくれないだろいか、と。私はもちろんそれを承諾しました。だって、彼がどれほど真剣にその人を探しているのかがここを訪れる度に痛いほど伝わってきたのだから。それからは1年に1度、彼は必ずその時と同じハロウィンの前の12時ちょうどに現れるようになりました」 「………」  マスターの話はどこかで聞いたような話だった。それが自分とリンクしているのだ、と頭が気づくまでにかなりの時間を要した。  だって、まさかそんなことがあるのだろうか。  自分を置いてでていった男のことなどすでに忘れていたのではないか。探していたといっても、これほど切に自分に会いたいと思っていてくれたなんて、にわかには信じられない。  現に、彼は許すことはできないと言ったし、指輪を残して消えてしまった。  そんな男の考えがわかるように、マスターは男が手にしている指輪を見ながら話を続けた。 「その人は自分と同じ指輪をしている人だと」 「…………」 「ジャック。あなたは最初に話した、マラカイトの石に秘められたもう一つの言葉の意味を知っていますか?」 「いえ……」  カウンターから抜けて、ジャックの前にたったマスターは彼の手をとり、その薬指にある指輪に触れた。 「危険な愛情。一途すぎる愛は危険を伴う、といった意味が込められているようです」 「?どうゆう意味でしょう」 「わかりませんか?」  マスターは男の目をじっと見つめてくる。 「離れても消えない、むしろ強く彼を思い続けたあなたの愛がいつしか執着へと変わり、それが彼にずっと鎖を繋いでいたんじゃないですか」 「?どうゆうことですか?」 「あなたは本当にわからないんですか?」  マスターは本当にわからないのかとでもいうように声を荒立てる。そこには少しの苛立ちも感じられた。 「彼は、もう、この世には存在していないんじゃないんですか?」 「は……?どうゆう……こと、ですか?」  マスターの言葉に、ジャックは狼狽えるばかりだった。    ……この人は何を言っているのだろうか。  だって、昨日、アイツは確かにここにいたじゃないか。  ずっと会いたかったと言ってくれて、抱き締めあって、一晩中そばにいたのに。  10年前と変わらない姿で………  10年前と変わらない姿で……?  いや、ちゃんと笑って、泣いて。少し顔色は悪かったけれど、触れるとしっかり伝わる体温が……  体温は……どうだった?  あいつの手は、足は、身体は……?  そんなジャックの戸惑いがわかるように、マスターは苦しそうに顔を歪めながら静かに口を開く。 「彼はもうずっと前からいないじゃないですか?だけど、あなたからの言葉の呪縛がまとわりついて、あなたのことが気になって、現世から離れきれなかった。だから1年に一度、魂がこの世に戻ってこれると言われるハロウィンの夜にだけ貴方を探しに戻ってきていた。彼の身体は氷のように冷たかったでしょう?本当に気づいてないんですか?ジャック、あなたは気づきたくなかっただけじゃないんですか?自分が、自分の行動が彼を殺してしまった、と認めたくなかった」 「そんな……そんなバカな……。俺、俺は……」  ジャックは言葉にならない掠れた声で自問自答するように呟き、力が抜けたようにドアにもたれかかった。そのときちょうどドアを叩く音がした。

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