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1日目⑥

 アーケードを抜けて、屋根の無い三条通りを歩きだすと、すぐに煜瑾(いくきん)が目を止めた。 「とっても雰囲気のあるレトロなビルですね~」  興味津々と言った様子で、外観やテナントの看板を見ている煜瑾に、小敏(しょうびん)がキョロキョロと視線を送ってビルの情報を集めた。 「1928年からあるビルなんだって。当時は新聞社だったらしいけど、今はレストランとかギャラリーとかが入ってるって書いてある」  小敏の日本語を読んだだけの情報にも、煜瑾は感心したように大きく頷き、ビルを見上げては、その窓やバルコニーなど、現代とは違う意匠に感動したようにタブレットで撮影した。  他にもユニークなデザインのビルや建物が並ぶ三条通を、煜瑾は楽しそうに文維(ぶんい)と小敏と散策した。  紙の問屋の店先で、切れ端の和紙を集めたメモ用紙や、可愛い千代紙を、煜瑾は自分へのお土産に買った。  珍しい和装用の足袋の専門店のショーウィンドウでは、その縫製の精緻さや、カラフルな色合い、可愛いデザインの柄など、和服とはまた違う面白さに目を奪われた。 「煜瑾が楽しんでくれるものがいっぱいで良かった」  小敏が従兄(いとこ)に囁くと、煜瑾の恋人も優しい笑顔で頷く。  文維は、小敏が留学中に何度か京都にも来ていて、それほど目新しいとは感じなかったが、芸術家肌の煜瑾の目の付け所は、自分たちとは違うと分かって面白い。 「え?」  南側の建物に気を取られていた煜瑾が、振り返った瞬間に、その瞳をキラキラさせて驚きの声を上げた。 「どうしました?」  北側の、いかにも和風にリノベーションされた建物を見つめている煜瑾を不思議に思った文維が声を掛けた。 「ふふふ」  煜瑾の笑いに気付いた文維も口元を緩めた。そこは日本らしい建築ではあったが、イギリスの有名ブランドである、ポールスミスの直営店だった。このブランドは文維のお気に入りで、スマートなデザインのスーツを、文維は何着も持っている。 「記念に何か買って行く?」  小敏がからかうように言うと、煜瑾は何も言わずに文維の顔を見つめた。

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