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1日目⑧

 老舗のバーの地下で、文維はマティーニを、小敏はジン・トニック、そしてお酒が弱い煜瑾のために、甘口のカルアミルクを文維が注文した。  楽しい気分になって、3人は、そのままホテルまで真っ直ぐ歩いて帰った。  ホテルに戻ると、いずれも長身でイケメンの3人は目立つ。すでに見覚えたホテルのスタッフが、挨拶をしてくれる。  気持ち良くロビーを抜け、エレベーターホールに来た途端に、煜瑾から笑顔が消えた。 すぐにそれに気付いた小敏が、チラリと文維の様子を窺うと、黙って文維は頷いた。  エレベーターが来て、3人は乗り込んだ。  文維はすぐに手を伸ばし、16階のボタンを押した。それを見た煜瑾が、ハッとして文維の顔を見る。そして、その慈愛に満ちた笑みの意味を、聡明な煜瑾は瞬くうちに理解する。 「文維に、僕たちのスイートルーム、見せてあげる?」  からかうように小敏が言うと、煜瑾は少しはにかみながらも、素直に大きく首を縦に振った。 ***  部屋に入ると、左手に鴨川を望むリビングがある。煜瑾は文維の手を引いて、そのリビングの窓際へ連れて行った。 「私の部屋からも同じ景色が見えますが、1フロア違うだけで、また雰囲気が違いますね」 「この真下が文維のベッド?」  小敏が意味ありげに言うと、煜瑾は頬を染め、文維は悪戯好きの従弟をたしなめるような視線を送った。  そんな愛し合う可愛い2人を前に、小敏はニッと笑ってリビングから出て行こうとした。 「小敏?」  不思議に思った煜瑾が声を掛けると、小敏は多くの人を魅了する、チャーミングで明るい笑顔で答えた。 「ボク、先にバスルームを使うね」  その言葉に何か言おうとした煜瑾の腕に、文維がソッと触れた。すでに小敏が、文維と煜瑾を2人きりにしようと気を遣っていることを察していたからだった。

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