12 / 56

2日目①

 ホテルでの朝食は、最上階の眺めの良い和洋折衷のビュッフェと、6階にある京料理店での和食朝食膳とが選べると言うことだった。  煜瑾の京都での最初に朝に相応しいだろうと、文維はホテルが決まったと同時に、上海にいるうちから、一般の朝食膳ではなく、特別な予約が必要なこだわりの朝食膳を3人分予約していた。  店の前で、文維が待っていると、煜瑾と小敏がキョロキョロしながらやって来た。 「文維~、おはようございます!」  一晩会えなかった恋人を見つけ、煜瑾は安堵したような笑みを浮かべて駆け寄ってくる。  その姿は、すでに観光に出られるよう、煜瑾には珍しいカジュアルな服装だった。  キャメルのハイネックのフリースに、オーバーサイズのピンクのカーディガンを羽織っている。下は栗色のベロアパンツで、赤い、バスケットシューズのようなハイカットのスニーカーがよく似合う。 「煜瑾が、可愛くて声も出ない?」  小敏が冷やかすと、文維は一瞬ムッとした顔を従弟に向けたが、それが事実であるので、すぐにフッと頬を緩めた。 「もう。小敏も、朝からそんな冗談を言って、文維を困らせないで下さい」  すっかり冗談だと思ってクスクス笑う煜瑾だが、文維と小敏は冗談ではないと分かっていて苦笑するしかなかった。  朝食の席について、注文を終えたのは8時半だった。遅めの朝食のように思えるが、時差を思えば上海ならまだ7時半だ。 「日本人でも、ここまで豪華な朝ご飯は毎日食べないと思うよ」  特別な朝食セットを待つ間、小敏は日本への留学中に食べた朝食の話をして、文維と煜瑾を楽しませた。  まるで煜瑾の集めるミニチュアのように可愛らしい小鉢が並び、焼魚や玉子焼き、煮物、汁物、そして色鮮やかな京漬物まで出されると、初めての煜瑾だけでなく、食べることが大好きな小敏も目を輝かせた。

ともだちにシェアしよう!