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2日目③

 朝一のおかげで、数分並んだだけで名物の「豆餅」はすぐに買えた。  3個買ったものの、甘いものが苦手な文維は、煜瑾の分を一口かじって、美味しいね、と微笑み、小敏がペロリと2個食べた。 「そんなに甘くないし、この豆が美味しいですね」  商店街のアーケードの方に戻りつつ、ほとんど生まれて初めての食べ歩きを体験した煜瑾が、楽しそうに言うと、クールな文維も微笑み、恋人の口の周りに付いた白い粉を拭きとった。  そんな2人を先導して、小敏は商店街のアーケードの中へ入って行く。 「京都で、もう1つ有名な和菓子があるんだけど、みんなデパートで並んで買うんだよ」  また行列ができるお菓子の話になって、煜瑾の関心を引く。 「でもね~、あんまり知られてないけど、この商店街でも買えるんだ~。並ばずに買えるから、おススメ~」 「そんなに、美味しいのですか?」  煜瑾の問いに、小敏は大きく頷く。 「京都で一番高い山が比叡山(ひえいざん)っていうんだけど、そこに延暦寺(えんりゃくじ)っていう日本有数の仏教寺院があるんだよ。そこにいる偉いお坊さんのかぶっている(かさ)をイメージして作ったっていう、由緒正しい、歴史のある、すごく美味しいお菓子なんだよ」  きらきらして聞いていた煜瑾だったが、商店街を歩きながら、少し表情が曇ってしまう。 「どうしました?」  心配になった文維が顔を覗き込むと、煜瑾は困ったように笑った。 「甘いお菓子なら…また文維は食べられませんね…。それに…、こんなにお菓子ばっかり食べていたら…、お昼が食べられないです…」  煜瑾の心配を、小敏は優しく笑った。 「次のお菓子は、持って帰るから大丈夫。今夜ホテルで食べようよ~」  そんな風に楽しみにしながら、今度も小さな店舗ながら並ぶことも無く「阿闍梨餅(あじゃりもち)」をお持ち帰り用に買って、3人は次を目指すのだった。

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