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2日目⑦

 下鴨神社への参拝の後、フルーツサンドを堪能し、研修会の打ち合わせのためにホテルに戻った文維と別れ、遺された煜瑾と小敏は、バスに乗って上賀茂神社へと向かった。 「お母さんの下鴨神社の神様と、息子の上賀茂神社の神様は仲良しなんだよ。だから毎年、お母さんの代理人が上賀茂神社までご挨拶に行くんだ」 「え~!お母さまのほうから?息子の方からお母さまの方へご挨拶に行くものではありませんか?」  小敏は毎年5月に開催される「葵祭(あおいまつり)」について分かりやすく説明したのだが、純粋な煜瑾は「(こう)」の精神を説くので、小敏は苦笑を隠せない。 「まあ、本人が行くわけではないから…」  小敏の微妙な説明にも、煜瑾は一応納得して、ふーん、という顔をして、詳しくはタブレットを使い、自分で調べることにした。  バスの終点で降りると、目の前に大きな赤い鳥居が見えた。  下鴨神社の森に包まれるような雰囲気とは違い、上賀茂神社は開放的な馬場が広がる。そこから真っ直ぐ本殿の方に向かった。  手水で手と口を清め、下鴨神社の時と同様にお参りを済ませると、煜瑾は社務所に寄って、可愛らしいお守りだけでなく、カワイイ小物の中に封じたおみくじにも関心を持った。 「お守りとか、おみくじとかって、たくさん買うと神様に叱られますか?」  純真な煜瑾は、畏敬の念を以て不安そうに小敏に訊ねた。 「そうだね~、下鴨神社と上賀茂神社は母子だから許してもらえるんじゃないのかなあ?」  そうは言ったものの、小敏も自信が無く、薄く笑った。そして、社務所の近くを歩いていた浅黄色の袴姿の男性に、声を掛けてみた。  その人によると、別に幾つ買っても神様はお怒りにならないだろうけれども、神様を信じていないように思われて正しいご神託を得られないかもしれない、とのことだった。 「じゃあ、おみくじは…やめます。せっかくの『大吉』が、無かったことになるのはイヤですから」  煜瑾は残念そうにそう言って、交通安全のお守りだけを買った。

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