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2日目⑨

 串の先の、ひと口サイズの餅を香ばしくあぶって、白味噌ベースの甘いタレをたっぷり付けた「あぶり餅」は、ここ、今宮(いまみや)神社山門(さんもん)前の茶店でしか食べられない。作り立てをその場で食べるのが醍醐味だが、地元の人間は多めに買って持ち帰ることも多い。  独特な甘い白味噌の味が気に入った煜瑾は、もっと食べたいと思ったが、お腹が膨れてしまって残念だった。それでも10本以上食べることができた煜瑾に、自信を持って勧めた小敏も満足だった。  そこから北大路(きたおおじ)通りまで出ると、ちょうど来たバスが金閣寺(きんかくじ)に行くということなので、2人は慌てて飛び乗った。 「夕方の金閣っていうのも、イイ感じらしいよ」 「イイ感じって?」  なかなか具体的なことを言おうとしない小敏に、煜瑾はもどかしい。おっとりして、純粋な煜瑾が、小敏に対して苛立つことは無いのだが、どうしたらよいのかモジモジすることは多いのだ。 「朝焼けの金閣寺っていうのは、なかなか見られないんだけど、夕日に映える金閣寺なら拝観時間内で見られるからね」 「ああ、夕日に照らされて、金色が輝くのですね」  小敏の言わんとすることに気が付いて、煜瑾は目を閉じて、キラキラと黄金に輝く建物をイメージした。  ワクワクしながら拝観料を払い、庭園を回って金閣の前まで来て、文維と煜瑾は顔を見合わせた。 「……。こんなことも、ありますよね」 「……なんか…、ゴメンね」  残念なことに、今日は曇りで、夕日が金閣をキラキラと輝かせることはなかった。  ガッカリしながらも、それでも小敏と煜瑾は人が少なくなった庭園で、ゆっくりと金色の建物を鑑賞し、満たされた気持ちでバス通りへと向かった。  そこからバスと地下鉄を乗り継ぎ、煜瑾と小敏は、文維と夕食の待ち合わせをしている烏丸(からすま)御池(おいけ)に移動した。 「文維と待ち合わせの時間まで…まだあるねえ」  地下鉄東西線で烏丸御池に降りた時、小敏はスマホで時間を確認し、ポツンと呟いた。

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