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2日目⑩

 観光を終えた煜瑾と小敏は、宿泊先のホテルで明日からの研修の打ち合わせをしていた文維と、夕食の待ち合わせをしていた。ただ、約束の時間まで、まだ1時間以上ある。  商業施設も多い烏丸御池(からすまおいけ)周辺では、漫然と時間を潰すこともできるが、サービス精神旺盛な小敏は、煜瑾を楽しませたくてならない。 「あ、煜瑾なら文化博物館なんてどうかな?」  パッと小敏が閃いたように言った。 「もう5時を過ぎましたが、まだ開館している博物館があるのですか?」  煜瑾が心配そうに訊ねると、小敏は自信満々に頷いた。 「文化博物館は、観光客用の飲食店もあるし、お土産なんかも売ってるから、7時まで開館してるんだよ」 「便利なのですね~」  嬉しそうな煜瑾にホッとして、小敏はさっそく三条(さんじょう)通りを目指して歩き出した。  文化博物館には、常設展示と特別展の他に、重要文化財に指定されている旧日本銀行京都支店であった別館がある。  小敏ほどに日本文化に詳しくない煜瑾に、特別展は難解だろうと判断した小敏は、京都の歴史や文化を分かりやすく展示した常設展示と、別館を見学した。  煜瑾は、興味を持って見学し、十分に楽しんだ。 「今度は祇園祭(ぎおんまつり)に来てみたいです」  祇園祭の展示や解説に関心を持った煜瑾は、清純で大きな黒い瞳をキラキラさせて、見慣れているはずの小敏ですらうっとりするほど美しかった。  そろそろ時間だとなって、博物館を出て、目の前の高倉(たかくら)通りを北上した。御池通りを越えた所にある、築100年以上の京町家をリノベーションした、品のある焼き鳥店の前で煜瑾と小敏は、文維を待った。 「お待たせしました」  それでも約束の時間に3分遅れただけで文維は到着した。それを笑って許して、3人は、(もと)は呉服屋さんだったというお店へ足を踏み入れた。 「焼き鳥屋さんっていうと、肩を寄せ合ってワイワイするイメージなんだけど、ここならお座敷もあるし、落ち着いて美味しいものがいただけるんだよ」  留学中に何回も来たという小敏が、京町家(きょうまちや)の雰囲気を珍しそうに見回している文維と煜瑾に説明した。

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