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3日目①
朝食を終え、今日は1日中研修のため、ホテルから出られない文維と、煜瑾と小敏は別れた。
今日は観光も、食事も2人だけだが、煜瑾は寂しがっている暇はなかった。
大好きな美術館巡りや、京都らしい寺院の庭園での紅葉を鑑賞することを、出発前から煜瑾が楽しみにしていたからだ。
今日もまた1日乗車券を持って、煜瑾と小敏はバスに乗って岡崎 公園へ向かった。
「わあ~!大きな鳥居ですね~」
岡崎公園で一番目立つのが、真っ赤な大鳥居だ。その鳥居の左右に、京都市美術館や近代美術館がある。
今日はどちらの美術館も人気の特別展は無いようで、行列なども無く、チケットを購入しただけで入館できた。
煜瑾はこれまで見たことも無かった日本の近代美術を鑑賞することが出来て、十分満足したようだった。
ちょうど明治以降の西洋文化の影響を受けた日本画は、煜瑾にとって興味深かったようで、美術館内のスーベニアショップで絵ハガキやクリアファイルなど嬉しそうに買い集めた。
「ちょっと早いけど、移動しようか」
小敏に言われて、不満の無い煜瑾は素直に頷いた。
2人はバスに乗って、北の方へ向かった。
「この通り沿いには、いくつものお寺があって、紅葉の美しい庭園もたくさんあるんだ」
小敏は通り過ぎる永観堂 の説明をし、中央分離帯の並木が美しい白川通りをバスが進むと、小敏はさらに張り切った。
「昨日行ったのが金閣寺で、こっちにあるのは銀閣寺。でも、銀箔とかは使ってないんだよ」
「銀箔が剥がれてしまったのですか?」
「ううん。銀箔を貼る前に、お金が足りなくなったみたいだよ」
現実的な小敏の答えに、煜瑾は心から残念そうに、形の良い眉を寄せた。
北白川の山沿いにある曼殊院や修学院離宮など、小敏は簡単な紹介をするが、バスはまだまだ北を目指す。
花園橋という交差点まで来ると、小敏はちょっと口を歪めた。
「ここから右折すると、紅葉で有名な八瀬・大原方面に行くんだけど…。有名なお寺や庭園がたくさんあって、見どころも多いんだ…でもその分、観光バスで来たりするから人が多いんだよ。ボクもだけど、きっと煜瑾も人が多いと疲れちゃうから…」
小敏の気遣いに、煜瑾は嬉しそうに笑う。
「有名な所は、動画や写真でも観られますから…」
素直で、貪欲な所が無い煜瑾は、有名な寺院や庭園の見学ができないとなっても、不満を漏らす様子もない。
「これから行くところなら、きっとゆっくり紅葉の庭を鑑賞できるからね」
励ますような小敏の口調に、煜瑾はニコニコと無邪気に笑うばかりだった。
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