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3日目④

 国際会館駅まで戻った2人は、今度は先ほどと同じ京都バスで「貴船(きぶね)鞍馬(くらま)」行きに乗った。 「電車ではないのですか?」  ちょっと不安そうに煜瑾(いくきん)が言うと、小敏(しょうびん)は優しく笑った。 「電車は、帰りに乗るんだよ。貴船(きふね)神社までは、バスの方が便利なんだ」 「そうなのですね」  ホッとした煜瑾は、いつものように穏やかな笑顔に戻り、車窓を楽しんだ。 「いつもは、貴船口ってバス停で降りて、歩かないといけないんだけど、11月中はイベントがあるから、奥までバスが行くんだ」 「イベント?」 「そう、一面見事な紅葉なんだけど、それをライトアップしていて、とっても幻想的でキレイなんだ~」  留学時代、何度か来たことがある小敏は懐かしそうに言った。  京都の有名な紅葉スポットはたくさんあるが、西の嵐山(あらしやま)、東の東山(ひがしやま)山科(やましな)などよりも、小敏は洛北の紅葉が好きだった。大学が近かったというのもあるが、それほど観光化されておらず、交通も不便なところが多いため、人が少なく静かな所が気に入っていた。 「小敏の留学時代は、とても楽しかったのですね」 「ん~、楽しいっていうか、充実はしてたな。勉強もしたし、友達も出来た。たくさん遊んだし、学外で学ぶこともたくさんあった…」  煜瑾は、小敏の留学時代を全く知らない。従兄(いとこ)である包文維(ほう・ぶんい)はもちろん、後輩の申玄紀(しん・げんき)でさえ、留学中の小敏に会いに日本へ何度か来ていた。 「今回の旅は、小敏と一緒で本当に良かったです。とても楽しくて、とても充実しています」  満ち足りた親友の笑顔が、小敏もまた嬉しかった。 「ボクも、煜瑾と一緒に来られて、本当に楽しいよ」  2人は顔を見合わせ、少しはにかみながら微笑み合った。  やがてバスは山が迫る狭い道に入った。  窓の外にはすでに美しい紅葉が迫っている。 「さあ、貴船神社のライトアップだよ」  小敏が煜瑾の耳元に囁きかけ、バスは停まった。

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