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3日目⑤
溢れんばかりの豪華な紅葉を、浮き上がるようにライトアップしたイベントが、貴船 では毎年11月に開催される。
「ああ、もう、この世のものとは思えません」
煜瑾 は目の前の幻想的な風景に、大きな黒い瞳を潤ませている。
「キレイだね~」
いつもはもっと饒舌な小敏 も、この景色を前に口数がすっかり減ってしまった。
2人は黙って紅葉に彩られた幽玄の世界を歩いた。
ただ赤くなった木の葉を照明が照らしているだけのはずなのに、どうしてこれほど人の心を打つのか。感動した煜瑾は、持参したタブレットで撮影するのも忘れ、足を止め、この景色を 心に焼き付けようとするようにうっとりと見つめた。
貴船 神社まで歩き、見学を済ませ、夢見心地の煜瑾と小敏が、叡山 電鉄の貴船口駅まで戻って来たころには、辺りはすっかり暗くなり、むしろ今頃から観光客も増えて来たようだった。
5時前に来た煜瑾たちだったが十分に楽しみ、6時半には貴船口で電車を待っていた。
「あ、次に来るのは、観光電車の『きらら』だって」
時刻表を確認した小敏が嬉しそうに声を上げた。
「観光電車?」
「そう、外の景色が見やすいように窓が広くて、座席も外を向いてるんだよ」
「そんな素敵な電車に乗れるのですね」
上海では有名な、名門で富豪の出自である煜瑾は、公共の乗り物などほとんど乗ったことが無かった。それが近頃では、上海の地下鉄を乗りこなせるようになった。そんな自分自身の成長が嬉しい煜瑾だ。
今回も、旅先で小敏が一緒とは言え、公共の乗り物であちこち観光するのが楽しくてならなかった。
「そう。『きらら』は決まった時間にしか走ってないから、時刻表を確認してわざわざ乗りに来る人もいるくらいなのに、たまたま乗る電車が『きらら』だなんて、ラッキーだよ。やっぱり、煜瑾は天使だね」
思わぬ小敏の誉め言葉に、煜瑾はクスクス笑った。
「あ、来たよ!」
ちょうどタイミング良く、ワイドビューの観光用のシートが2つ空いていた。嬉々として2人は並んで座った。
「もうすぐ、楽しいことが起きるよ」
小敏は悪戯っ子の顔をして、そう言った。
「楽しいこと?」
純真な煜瑾の丸くなった目が、小敏には面白くてならない。
「なんですか?楽しいことって」
「ふふふ。さあ、なんでしょう…。あ!もうすぐだよ」
電車が駅を出発すると、小敏が窓の外を指さした。
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