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3日目⑥
煜瑾たちを乗せた観光電車「きらら」は、急に速度を落とし、次に天井の照明が暗くなった。
「え?」
明らかに何かが起こる予感に、煜瑾が期待のこもったキラキラした目で小敏を振り返った。
「は~」
次の瞬間、その景色に圧倒された煜瑾には、もう溜息しか出なかった。
車内が暗くなったのは、線路沿いのライトアップが映えるように、であり、そこには艶やかな紅葉のトンネルが待っていた。
「うわ~」「きゃ~」「おお~」
車内のあちこちから声が上がった。
電車は、ゆっくりと赤やオレンジに彩られたトンネルを進む。まるで遊園地かなにかのアトラクションかのように、乗客たちをワクワクさせていた。
もちろん、煜瑾も小敏も嬉しそうに車窓から外を見ていた。目の前だけでなく、天井までが窓というワイドビューの観光電車ならではの光景は圧巻だった。
やがてトンネルを通り過ぎ、車内の明かりも戻った。
「はあ~。本当にキレイでした。まるで別世界に行ったかのようです」
感動して目を潤ませながらも、煜瑾は満ち足りた笑みを浮かべていた。
「本当だね~。実はボクも、この紅葉トンネルのライトアップは初めてだったんだ。前に来た時は昼間だったんだよ」
「それはそれで、キレイだと思います」
煜瑾は、人工的な光ではなく、太陽に照らされる紅葉トンネルを、目を閉じて想像して、うっとりと言った。
「あのクールな文維だって、きっと感激する…」
「っ!」
小敏の何気ない一言に、煜瑾は息を呑んで声も出なかった。
「ん?どうしたの、煜瑾?」
「ぶ、文維に見せる動画を撮影するのを忘れていました…」
みるみる美しい顔を曇らせ、今にも泣きそうな煜瑾に、小敏は笑いながら慰める。
「文維に見せる動画も写真も、ボクがスマホで撮ったから心配いらないよ。煜瑾は夢中だったから、撮影を勧めるのもどうかと思って、さ」
「ああ、ありがとう、小敏…」
煜瑾は親友の心遣いに、ホッとして、やっと笑顔を取り戻した。
「そのくせ、ずっと文維に見せたいなって思っていたのです」
そう言って煜瑾は恥ずかしそうに笑うが、それが可憐で、清純で、可愛らしい事この上ない。
「今度は、文維と2人で来るといいよ」
「…はい。きっと、いつか…」
はにかみながらも、嬉しそうな煜瑾に、小敏も微笑んだ。
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