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3日目⑦

 紅葉のトンネルを過ぎると、通常運転に戻り、観光電車も時間通りに終点の出町柳(でまちやなぎ)駅に到着した。  そこから京阪(けいはん)電車に乗り換える。  叡山(えいざん)電鉄と京阪電車は、小敏(しょうびん)たちが持っている1日乗車券の対象外なので、小敏は「きらら」に乗る時に京阪電車との連絡切符を購入していたのだ。 「さあ、夕食に行こうか」  京阪三条駅で下車すると、楽しそうに小敏が言った。  つられるように煜瑾(いくきん)もウキウキしている。 「今夜のお夕食は何ですか?」  まだまだ元気そうな煜瑾にホッとしながら、地下の駅から出てくると、そこは三条大橋(さんじょうおおはし)のすぐ傍だった。 「ん~、牛肉と豚肉で迷ったんだけどね~」 「私はどちらでも構いませんよ」  煜瑾がそう答えることを見越していた小敏は、三条大橋を西へ渡り、柳が揺れる、情緒のある木屋町(きやまち)通りを説明し、河原町(かわらまち)通りまで進んだ。 「ボクも悩んだけど、今夜は、煜瑾の好きなトンカツだよ!」 「わあ、嬉しいです。私は、小敏に教えてもらった、上海のモールに入っている日本のトンカツ屋さんが大好きなのです。今夜は本場のトンカツですね」  京都の人気チェーン店で食べるトンカツが、「本場」といえるのかどうかは疑問の余地は残るが、小敏はせっかく喜んでいる煜瑾の気持ちを削ぐことの無いよう、ただ笑っていた。  人で混みあう横断歩道を渡り、2人は三条商店街に入って行く。  伝統工芸品を売る、古そうな店から、日本の最新ヒットソングチャートが聞こえてくる楽器店などを通り過ぎながら、煜瑾が足を止めるほど美しいホールケーキが並んだ喫茶店の前を通り過ぎたところで、小敏が振り返った。 「小敏?」  なぜ小敏がそこで立っているのか分からない煜瑾は、純粋な眼差しで無邪気に小敏に問いかけた。 「ココで~す」 「は?」  小敏が指さしたのは、人ひとりがやっと通れるほどの狭い通路だった。 「裏口?」  一瞬怪訝そうになった煜瑾を、悪戯っ子っぽく笑った小敏は、しっかりと手を握り、細い路地の奥へと引き連れて行った。

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