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3日目⑧
2人は、たっぷりと大好物のトンカツを味わい、満足してホテルへと向かって歩き出した。
「とっても素敵なお店でした。あんな細いところを通って行くなんて」
煜瑾 はよほど路地の奥の店舗が意外だったのか、何度もそのことを楽しそうに口にした。
「だろう?日本の、っていうより京都らしい建物だから、面白いかなって思ったんだ」
「小敏 は、色々なお店を知っているのですね。とっても頼りになります。一緒に来られて嬉しいです」
「ボクだって、煜瑾に喜んでもらえてとっても嬉しいよ」
そう言いながら河原町 通りを北に向かって歩いていると、煜瑾のスマホが鳴った。
「あ!文維 です!今、懇親会が終わったそうですよ」
そう言って嬉しそうにチャットメールを読んだ煜瑾に、小敏はハッと思い付いた。
「ねえ、文維にホテルのロビーで待つように伝えてよ」
「ロビーで?」
「うん。部屋に戻る前に、カフェに行こう」
素直な煜瑾は、小敏に言われるまま、文維にメッセージを送った。
文維は今夜、研修会のメンバーと基調講演を依頼した日本人研究者たちとの懇親パーティーで、ホテルのバンケットルームにいたのだ。夕食は、そこで出されたブッフェスタイルの食事のはずだった。
煜瑾と小敏がホテルのロビーに戻ると、中央のソファに座る文維は、いやが上にも目に付いた。
座っているので長身なのは目立たないが、それでも卓越した端整な顔立ちや、軽く組んだだけの長すぎる脚や、誘惑的なフェロモンをまとった文維は、どうしても人目を集めてしまう。
「文維、お待たせしました」
そこへ駆け寄る煜瑾が、また注目を集めるほどの美貌だ。
笑顔を交わす2人の周囲だけが、まるでスポットライトが当たって浮き上がっているように小敏には思えた。
「なんでも、とても素晴らしい夕食だったんだって?」
煜瑾と並んで近付いてきた文維は、開口一番にそんな風に小敏に声を掛けた。
「文維だってホテルのビュッフェなら満足でしょう」
小敏がそう言い返すと、文維は皮肉っぽい顔をして笑った。
「?…文維?」
その意味が分からない煜瑾は、キョトンとあどけない顔をして文維を覗き込む。
「ま、カフェでお茶でも飲んでから部屋に戻ろうよ」
文維が何かを言う前に、小敏がそう言って、3人はロビーにあるカフェに入った。
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