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3日目⑨

 カフェに入ると、文維は和風パスタを注文し、小敏はアップルパイを注文した。 「ウソでしょう?さっき、あれほどトンカツを食べたのに?」  呆れかえる煜瑾は、眠れなくなると困るからとカフェイン入りの飲物を避けて、フレッシュフルーツのミックスジュースを頼んだ。 「本当はフレンチトーストが良かったんだけど、数量限定だから、この時間は無いんだって~」  煜瑾の指摘も気にせず、食べる気満々の小敏はカワイイ唇を尖らせた。 「文維は?文維も、パーティーでお食事は済ませたのでは?」  こちらも煜瑾の理解を越えていて、不思議そうに確認する。 「まあ、お料理は美味しかったのですが、私は来賓ではなく、もてなす側なので、ゆっくり食べている暇が無かったのです」 「そうなのですね!」  やっと事情を理解した煜瑾は、空腹の文維に大いに同情した。  名家である「唐家の深窓の王子」として育った煜瑾には、パーティーは、もてなされる側がほとんどだ。唐家の主催するようなパーティーであっても、ホスト役は当主の兄・唐煜瓔(とう・いくえい)であり、煜瑾は有能な執事に守られるようにしての参加しか知らない。  今夜、文維の言葉で初めて、パーティーの主催者側の人間はゆっくり食事も出来ないのだと知った煜瑾だった。 「ん~コレコレ!ここのアップルパイはリンゴがタップリで美味しいんだよ」  小敏の前に出されたアップルパイを見て、煜瑾は目を見張った。パイ生地は薄く、厚みはほとんどリンゴだ。甘く煮たリンゴとシナモンの香りに、温かなパイの熱でゆっくりと溶けだしたアイスクリームのバニラの香りが合いまって、甘く幸せな香りがする。 「あ~、とっても美味しそう…」  見た目と香りに、お腹がいっぱいだと言っていた煜瑾も、大いに誘惑される。 「唐家の、リンゴとカスタードクリームの相性がいいアップルパイも美味しいけどさ。この、リンゴを食べるためのアップルパイって感じがまた、もう、ほら…」  久しぶりにこのカフェで食べる、お気に入りのアップルパイに、小敏も興奮気味だ。 「小敏。意地悪しないで、煜瑾にひと口あげて下さい」  うっとりとデザートトレイを見つめる煜瑾に気付いて、文維が苦笑しながら言うと、小敏もニヤリとやり返す。 「最初からそのつもりでした~。むしろ、こんな美味しいものを煜瑾に食べさせたくて頼んだようなもんなんだから」 「ありがとう、文維、小敏」  子供のように無邪気に、天使のように純粋に、心から嬉しそうに言う煜瑾に、小敏も文維も満足だった。  こうして3日目の夜もまた、楽しく過ぎていくのだった。

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