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5日目②

 そこは、床の間もある昔ながらの京間(きょうま)の座敷だったが、和風の(しつら)えに合う、椅子と小さな机が用意されていた。ちょうど立式の茶道に使うような、黒塗りの簡易な椅子と机だ。  海外の体験者に配慮してなのかと小敏は感心したのだが、それだけではない。今や日本の伝統的な「お稽古事」も、すっかり高齢化しており、畳の上の正座での立ち居振る舞いが厳しい生徒さんが多いために、こうした椅子を用意してあるのだ。  しかし、そこに待っていた、香道の師範は小柄ではあったが、かくしゃくとして、正座もいとわないほど足腰もしっかりしているように見えた。 「お越しやす。茉莎実のお友達やそうで。孫娘がお世話になっております」  小敏と煜瑾が座敷に案内されるなり、茉莎実の祖母はすっくと椅子から立ち上がり、お手本のような立礼を見せた。 「こ、こちらこそ…」  その圧倒的な迫力に、さすがに能天気な小敏も圧倒されてしまう。  むしろ高貴な王子さまである煜瑾の方が、鷹揚な態度で優雅に微笑んでいる。  そんな2人のイケメンに、師範は満足げに頷いた。さすがに茉莎実の祖母だ、イケメンには甘いらしい。 「どうぞ、お掛けやす」  手で指示されて、煜瑾と小敏はそれぞれの椅子へ並んで腰を下ろした。  小さな机の上には、さらに小さな長方形のお盆が乗っており、その上に品の良い香炉が置いてあった。 「今からお試ししてもらうのは、聞香(もんこう)という、お香を楽しむ方法です。はやりの芳香剤のように、部屋中に匂いを充満させて満足するようなものとは違い、じっくりと香木(こうぼく)の香りを深く聞くのが目的です」  香道師範である茉莎実の祖母が話を始めると、先ほど案内してくれた女性が、何やら箱を運んできた。 「香炉の中には、すでに灰と炭が用意してあります」  師範の言葉に、女性が煜瑾と小敏に香炉の蓋を開けた。  そこには、綺麗に盛られた灰が見られた。 「美麗的(メイリーダ)(キレイ)…」  思わず煜瑾が呟いた。円錐形に盛られた灰の山は、日本庭園を思わせるようで、煜瑾は感激したようだ。 「その中の炭に、火箸で『火窓(ひまど)』を作ってもらいます」  師範の言葉に合わせるように、女性が煜瑾と小敏の机に道具を並べた。

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