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5日目③
珍しい聞香体験に、煜瑾は充分に満足し、2人は茉莎実の祖母に手厚く礼を述べた。
「これから、和菓子作り体験に行かはるんどすて?ほんなら、うちの営業さんに連れてお貰いやす」
高雅な煜瑾がすっかり気に入った茉莎実の祖母は、そう言って店にいた中年の男性に声を掛けた。
「若井 さん、堀川 の方へ納品があるんどすやろ?」
「はい、そうです。こちらが茉莎実お嬢さんのお友達ですか」
さして若くもない若井さんに、小敏はちょっと苦笑しながら、老舗薫香店の営業らしい誠実さを感じた。
古風なお年寄りの振りをしながら、実は英語も堪能な女主人、控え目でよく気が付く女性店員、そして真面目そうな外回りの営業を担当する男性店員、とたったこれだけの人数で支える店だが、ここで生まれ育った茉莎実が、伸びやかで人が良いのも頷けるような、温かい家庭的な店だった。
「これは、お土産どすえ。中国のお方は、あちこちにお土産を配る習慣があるし、お土産はナンボあっても困らへんと聞いてます。これは日本の匂い袋どす」
そう言って渡された匂い袋は、美しい西陣織の日本らしい柄の可愛らしいもので、確かにお土産としてはかさばることもなく、その上日本らしさ、京都らしさを感じることができ、煜瑾と小敏を喜ばせた。
「本当にお世話になり、ありがとうございました」
「アリガトウゴザイマシタ」
2人は繰り返し丁重に礼を述べ、百瀬茉莎実の実家を後にした。
松鶴堂 営業部員の若井さんの車で、北山 から四条堀川 まで送ってもらった煜瑾と小敏は、すぐ近くの和菓子店で、和菓子作り体験を申し込んでいた。
店に着くと、すぐに教室へ案内された。
「あとで、自分で作った和菓子を食べながら、お抹茶の体験も出来るんだって」
「日本の茶道体験ですか?」
上海でも日本の茶道や華道のデモンストレーションをあちこちで観ることができる。その様式美に憧れていた煜瑾は、見るだけでなく、自分が体験できることに大喜びだった。
教室では職人から説明を受け、その後に、すでに用意されていた「練り切り」という、粘土のようなものを配られた。それを、職人講師の言う通りに丸めたり、切込みを入れたりしていると、美しい菊の花のお菓子が出来上がった。
「素晴らしいです!こんなに芸術的な物が食べても美味しいだなんて」
感激した煜瑾は、何枚も写真を撮り、すぐに文維や兄の唐煜瓔にチャットメールに添付して送信していた。
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