39 / 56

5日目④

 午前中に、これだけの刺激的な体験をして、煜瑾はすっかり興奮していた。 「お腹空いたね~」  和菓子店で、手作りの菊花の練り切りとお抹茶をいただいたというのに、店を出て四条通りに出るなり小敏はそうこぼした。 「え?もうそんな時間ですか?ちっとも気が付きませんでした」  お腹が空くお昼時だということも忘れ、煜瑾はご機嫌で小敏の顔を見つめている。 「え~、ボク、もうお腹ペコペコだよ~。あ、バスが来たから、コレに乗ろう!」 「はい!」  いつもより元気に、煜瑾は小敏と一緒に四条通りを東へ向かうバスに駆け込んだ。  煜瑾にも、なんとなく見覚えのある四条河原町でバスを降りると、小敏は北を目指した。 「このまま、真っ直ぐに行くと、宿泊先のホテルですよね」  おっとりとはしているが、聡明な煜瑾は地図などもすぐに頭に入ってしまう。 「そうだよ。この途中の有名な本屋のカフェでランチにしよう」 「本屋さんで?」  もちろん、読書の大好きな煜瑾は日本の書店にも興味があった。しかもそこにはカフェがあって、食通の小敏が楽しみにしているほどのランチがいただけるのだという。 「なんだか、急にお腹が空いてきたような気がします」  ウキウキした煜瑾を嬉しそうに見ながら、オシャレなファッションビルの地下へと向かった。  そこは明るく、たくさんのジャンルの本が並ぶステキな書店ではあったが、何が有名なのか、煜瑾にはピンと来なかった。  煜瑾からすれば、日本らしくて魅力的な文具もたくさん並んでいるが、雰囲気としては上海の書店に似た感じがする。 「ここが、有名な本屋さんなのですか?」  その理由が知りたくて、煜瑾は好奇心いっぱいの目で小敏に問いかけた。 「ん~、日本の有名な近代小説に『檸檬(れもん)』というのがあってね。その小説に出てくるのが、この本屋さんなんだよ」 「へえ!小説の舞台になったお店なのですか!」  煜瑾はビックリして、改めてその美しい顔を巡らせて店内を見た。

ともだちにシェアしよう!