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5日目⑥
食事の後、煜瑾 は書店の文具や工芸品を販売しているコーナーで、小説『檸檬』の英語版を始め、ここでしか買えないと言われた限定のグッズなどをいくつか購入した。
他にも、日本各地の美しい絵ハガキや、京都の伝統工芸の1つである螺鈿 細工の桜が刻まれた万年筆を、兄の唐煜瓔 へのお土産にと買った。値段を見た小敏 は少し驚いたが、煜瑾はこの旅のために兄が用意してくれた、上限の無いクレジットカードで、なんでもない顔をして支払いを済ませた。
「お兄さまに相応しいものが買えたと思います。お兄様は、万年筆がお好きで、コレクションもされているのです。でも、ほとんどがヨーロッパの物で、こんなキレイな細工の日本の物はお持ちでないから…」
煜瑾が満足ならば、それで構わないと思った小敏は思い付いて、提案をしてみた。
「ねえ、そろそろ帰国する準備に、みんなへのお土産を買わない?」
もうすぐ帰国だと思い出し、毎日が夢の楽しいと思っていた煜瑾は、ちょっと寂しそうな顔をした。
「お兄さまの買物が済んだのなら、他の人へのお土産も買いに行こう」
小敏の提案に、煜瑾も頷いた。
「自分へのお土産もいるだろう?」
そう言われてハッと顔を輝かせた煜瑾だったが、次の瞬間にはクスクスと笑っていた。
「自分のお土産ばかり買っていたような気がします」
「それでいいんだよ。煜瑾の旅行なんだから、煜瑾が楽しんで、思い出もお土産もいっぱい持って帰らないと」
ニッコリと言う小敏に、煜瑾も静かに微笑み返すが、内心は感謝の気持ちでいっぱいだった。
引っ込み思案な子供だった煜瑾が、この明るい太陽のような羽小敏と友達になることで、ほんの少し自分を素直に表現できるようになった。
これまでの煜瑾の海外旅行は、いつも兄の後を付いて行くだけで、自分の好きなところへ自分の足で行くなどという体験をしたことが無かった。
そんな煜瑾が今回の旅で、公共の乗り物に乗ったり、美味しいお菓子を並んで買ったり、その国らしい文化体験をしたり、とにかく自分がしたいことをする、という経験が出来たのもまた、この親友のおかげだと思う。
「ボクもね、包 家の叔母さまに買いたいお土産があるから、ここから近い三条商店街に行くよ」
「おかあさまへのお土産ですか?私も、おかあさまに何か買いたいです」
文維 の母が大好きな煜瑾は、ウキウキした表情で小敏に申し出た。
「そうだね。ボクのお土産は、ボクからっていうより、叔母さまに頼まれたものだから…」
そう言いながら、2人はビルを出て河原町 通りを北に向かって歩き出した。
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