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5日目⑦

 河原町通りから西に延びる三条商店街のアーケードへと、小敏(しょうびん)煜瑾(いくきん)は入って行った。 「キレイな通りですね」  煜瑾が感心したように言うのを聞いて、小敏は小さく口元を緩めた。  確かに、大きくて明るく、車も通らないこの通りは清潔で歩きやすい。だが、こんな商店街のアーケードは京都だけでなく日本中あちこちにある。  上海の市場は屋根の無い所が多かったり、簡易式の不衛生な環境の店舗が並んでいたり、そうでなければ近代的な大きなショッピングモールか、スーパーマーケットになってしまい、こういう整然とした商店街が煜瑾には珍しいのだ。 「ここだよ」 「え?」  小敏が足を止めたのは、商店と商店の間にある、人ひとりが通れるほどの路地だった。 「この奥に、お店があるんだ」 「そうなのですね~」  すでに好奇心いっぱいの煜瑾は、小敏の肩越しに見える路地の奥を覗き込んでいる。 「きっと、ビックリするよ」  悪戯っ子のようなキラキラした目をして、小敏が煜瑾の手を引っ張って路地の奥へと進んだ。 「わあ~、こんなに広いなんて…」  路地を抜け出ると、そこは開放的な庭園だった。 「こんな風になっているなんて、想像も出来ませんでした。なんだか、物語の世界みたいですね」  文学青年の煜瑾らしい感想だった。  趣のある庭園を抜けると、クラシックな造りの茶室のような建物がある。  そこへ入ると、日本人に比べて背の高い小敏と煜瑾の2人ではもう店がいっぱいで手狭に見えるほどの、小さな、それでいて老舗の威厳のようなものを感じる上品な店だった。 「いらっしゃいませ」  決して堅苦しくなく、それでいて馴れ馴れしくもない応対も、老舗の余裕を感じて安心できる。 「以前、こちらの、このフランス刺繍の針を購入したのですが…」  そう言って小敏は、小さな包み紙を取り出した。それは前に京都のお土産として、包家の叔母である恭安楽(きょう・あんらく)に購入したものだった。

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