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5日目⑧
「ああ見えて、包 家の叔母さまは、お嬢様育ちだからね。フランス刺繍なんかもやっちゃうんだよね」
「おかあさまは、見るからにお嬢様ですよ」
小敏 の言い分に、包夫人が大好きな煜瑾 は穏やかに反論する。
「じゃあ煜瑾も、四つ葉のクローバーとかバラとかが刺繍されたブラウスで出掛けてみるといい」
「え?小敏は、おかあさまが刺繍なさった服を着ていたのですか!」
「小学校の頃だけど…。女の子みたいだってからかわれて、どんなに恥ずかしかったか」
ムッとした口調で言う小敏を、笑ってはいけないと思いながらも、煜瑾は口元が緩んでしまう。
こうして義母である恭安楽へのお土産を購入した煜瑾は、小敏に案内されて三条商店街をさらに西に進んだ。
「きっと煜瑾は気に入ると思うな」
そう言って小敏は寺町通りで右折し、北上する。
「私が?何でしょう」
煜瑾は楽しくてならないといった表情で、物珍しそうに周囲をキョロキョロ見回している。
「この辺りには、画廊や絵を描く道具や、日本的な文具なんかがいっぱいだよ」
「ええ!ステキです!」
絵を描くのが好きで、文具にも関心がある自分の好きな物ばかりがあると聞いて、煜瑾はソワソワし始める。
小敏と煜瑾は、通りすがりの画廊を外からチラチラ覗きながら楽しみ、画材店に立ち寄り、そして煜瑾が一番楽しみにしていた和風の文房具店に辿り着いた。
「お香の匂いがしますね」
店内に入るなり、煜瑾はニコリとしてそう言った。
「ほら、香道のセットも売ってる」
小敏に言われて煜瑾がショーウィンドーを覗き込むと、午前中に使った物によく似たお道具類が並んでいる。改めて、貴重な体験が出来て良かったと煜瑾は思う。
煜瑾は店内をじっくりと見回り、美しい版画の絵ハガキや色紙、漆塗りの文箱や白木の桐箱などを吟味して購入した。
「へえ、結構な大きさなのに、この箱って軽いんだね~」
買ったものは漆塗りの文箱に納めてもらい、厳重に梱包をお願いして、煜瑾は店を後にした。増えて来た煜瑾の荷物に、代わりに商品を受け取った小敏の感想は「意外に軽い」だった。
「そこが素晴らしいのです。日本の桐箱はとても軽くて害虫も寄せ付けず、手紙や書類を長く保存できるのです。漆を塗ってさらに丈夫に仕上げてあるのに、これほど軽いのです」
煜瑾は以前から関心を持っていた桐箱の知識を披露した。それも、美しい装飾がされている物が買えて、煜瑾は上機嫌だった。
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