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6日目③

 その後、秋らしい菊やコスモスを愛で、秋咲きの十月桜や秋バラなどを堪能し、多種の木々が紅葉しているのをゆっくりと見て回り、やがて大きなドーム状の建物の前にやって来た。 「温室だよ。珍しい花とかがあってね。前に来た時は、バナナがなってたよ」 「バナナ?」  煜瑾は馴染みのある食べ物の名前に、ほっこり笑った。 「食べられないよ」  小敏がわざとらしく注意すると、煜瑾は文維と顔を見合わせ、クスクスと笑った。  楽しそうに3人は温室に入った。今日は天気が良い小春日和なので、温室の中は少し蒸し暑い。 「これは…南米の珍しい蘭ですね。見事な発色ですね」  さすがに絵画が好きな煜瑾だけあって、色の美しい物に心惹かれるようだ。  文維は珍種の蘭よりも、可憐で美しい煜瑾に目を奪われてしまう。 「あ、カカオの実だ!これでどれくらいのチョコレートができるのかなあ」  食欲魔人の小敏は、そんなことを呟いては食べられる実ばかりを見ている。  それぞれに楽しみながら、温室を見て回った。 「は~、涼しい~」  温室から出ると、小敏は解放されたように思いきり深呼吸をした。 「楽しかったです。それに、緑が多いせいか、空気が美味しく感じられます」  まるで実家である唐家の庭園のようで、煜瑾はすっかりリラックスしていた。 「北門から入って、目の前にあるのが南の正門だよ。そこから北大路通りに出るよ」  小敏の的確な案内に、文維と煜瑾は安心してついて行った。  植物園を出て、西に向かうと、すぐに賀茂川に出る。北大路橋を渡りながら北山を見ると、見事に紅葉していた。その絵ハガキのような光景に、文維と煜瑾は感激していた。  賀茂川の河岸をランニングする人や、犬の散歩をする人など、日常的な様子が煜瑾の心を和ませる。  名門の唐家の「深窓の王子」であった煜瑾は、自分の足で歩き、普通の人々の暮らしぶりを見ることだけでも十分に新鮮で、刺激的だった。 「小敏は、このあと卒業した大学に行くのでしょう?」 「うん。同級生が、まだ大学に残っているからね。久しぶりに会って来るよ」  煜瑾の質問に、小敏が明るく答えた。  京都の大学に私費留学していた小敏は、大学院修士課程を修了して帰国したが、同級生の中には博士課程まで進み、その後も大学に残った者もいる。今日はその友人を訪ね、恩師にも会い、夕方からは卒業してからは会えなかった友人たちも集まって、ちょっとした同窓会の予定だった。 「文維と煜瑾は、午後から清水寺に行くんだって?」 「そうなのです。有名な場所だから、絶対に見に行こうって文維が勧めてくれたのです」  煜瑾はそう言って、文維の方を見て、幸せそうにほほ笑んだ。 「清水寺から八坂神社の方へ歩いて行こうと思っているんだ」  文維が答えると、小敏は納得したように大きく頷いた。 「間違いない京都観光コースだよね」  小敏にお墨付きをもらい、文維と煜瑾は期待に胸を膨らませ、植物園を出た北大路通りで、小敏と別れた。

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