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6日目⑤

 2人は満ち足りた思いで、ゆっくりと三年坂を散策し、お土産物屋を覗いたり、和風カフェでわらび餅を食べたりしながら、二年坂、ねねの道、を通り八坂神社を目指した。  かつては八坂神社の境内だったという円山公園では、もちろん花は無いものの、悠然と存在する大きな枝垂桜を見て、桜が満開の時季に来てみたいと文維と煜瑾は語らった。  ようやく祇園の八坂神社に着くと、社殿の見学や、祇園祭の一部の鉾などが保存されている倉庫を外側だけ見ているうちに、辺りは暗くなってきた。 「今夜は、小敏も行ったことが無い、老舗の料亭を予約してあるんですよ」  文維に言われて、煜瑾は嬉しそうに頷いた。 「日本に長く滞在していたクライアントがいて、その方から聞いたのです。質素に見えるけれども、伝統的な京料理で、侘び寂びの粋を感じるとのことでした」 「ステキですね。じゃあ、今夜は和食なのですね」 「いいですか、それで?」 「もちろんです」  2人は期待に満ちた目で、八坂神社のすぐそばにある、格式のある老舗料亭へと向かった。  不思議なことに、この特別な京名物を出す料亭には、そっくりな店が2軒、「本店」と「本家」が近くにある。この辺りの謎は、文維も解明できていないが、今回は「本店」の方を予約していた。 「おこしやす」  上品な店員に迎えられ、文維はネットでやりとりした予約票に、小敏が丁寧な日本語訳をつけたものを差し出した。 〈予約しています〉  文維も簡単な日本語は出来るし、小敏に教わってきたので余裕を見せる。そんな文維にますます信頼を寄せる煜瑾だった。 「小敏と一緒に行った『あぶり餅』のお店も、2軒が向かい合って、どちらに入るか迷いました」  煜瑾が楽しかった思い出を語ると、文維も優しい笑顔でゆっくり微笑んだ。 「このお店は、紹介されたから。似たお店が2軒あるなんて知りませんでした。けれど、いろいろ注文を付けたのですが、どれも気持ちよく受けて下さいました」 「日本の『おもてなし』ですね」  煜瑾は感慨深そうに何度も頷き、感心しきりだった。

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