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最終日の朝
幸せな気持ちいっぱいに包まれて、煜瑾は目覚めた。
背中に、心地よい人肌の温もりを感じる。それが昨夜、優しく、甘く、愛し尽くしてくれた、最愛の恋人の体温だと分かる。
(あ~、私はとても恵まれた人間だな。大好きな人に愛されて、信頼できる友人がいて、お土産を渡す家族がいる…)
目覚めたはずの煜瑾だが、もう一度目を閉じた。
(私をこの世に生んで下さって、ありがとうございます…。私と文維を巡り合わせて下さって、ありがとうございます…。私をこんなに幸せにして下さって、ありがとうございます…)
煜瑾は、具体的に何に対してという訳ではなく、自分の幸運を感謝した。
「起きたのですか?」
低く、濃艶で、誘惑的な声が、煜瑾の耳元を掠めた。そのセクシーな声に、煜瑾は過敏にビクリと反応する。
「…はい」
背後からの声に応えるように、煜瑾はクルリと身を翻した。
そこには、穏やかで、秀麗な、煜瑾の最愛の美男がいる。
「おはようございます、王子さま」
文維が声を掛けると、煜瑾は輝くように清らかな笑顔を浮かべた。
「おはようございます」
目の前の純真な天使に魅せられながら、文維は温柔に微笑み、抑えられない気持ちで腕の中の煜瑾を、ギュッと強く抱きしめた。
「今朝も煜瑾が美しくて、私を愛してくれて、本当に幸福 です」
文維の言葉に、煜瑾は印象的な大きな黒い瞳を、さらに大きく見開いた。
「文維、私も!私も、同じことを考えていました」
最愛の人が、自分と同じように考えていると知り、煜瑾は嬉しくてならなかった。
互いの存在が、互いを幸福にしている。生きている幸せを、最愛の人と分かち合うことで、文維も煜瑾も満たされていた。
その時、笑顔だった煜瑾がちょっと寂しそうな表情に変わった。
「煜瑾?」
「…今日はもう、上海に帰るのですね」
この1週間、煜瑾は心から楽しみ、感動し、成長した。
こんな充実した1週間を過ごしたことは、ないと煜瑾は思っていた。
「上海に帰って、いつもと変わらない、煜瑾と私の生活に戻りましょう」
文維の労わるような言葉に、煜瑾は寂しさを振り切り、ニッコリと微笑んだ。
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