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第3話

のそりとしたヤツだな、というのがケイのそいつの感想だった。 ケイは中学2年生になっていた。 孤高の美術室の王子様、と女子達がこっそり噂し、男子達はとにかく何一つコメントしようとしないことが逆にケイを意識してるのを感じさせていた。 目立つ美形ではないからこその、ケイの存在感。 男の子の中にいるからこそ際立ってしまう差異。 フェロモンを感じなくても、ケイは男性にはない造形があり、それは微かでも確かに匂い立ってしまう。 ケイもそろそろ無理なのかも知れないと思っていた。 もう「ベータの少年」でいられるのは。 まだベータの女性のフリをしたほうが良いのかもしれない。 でも。 ケイは。 少年でいたかった。 オメガではなく、ベータの少年で。 ケイは筆をおいた。 いつものように絵を描いていた。 ケイが好むのは水彩画で、柔らかな色で描かれた静物画が出来上がっていた。 ケイは静物画が好きだった。 そこにあるモノ達のカタチを写し、でもそこにケイから見える世界を描く。 その工程が。 そして、静物画には意味を持たせているものがあると知ってからはますます静物画が好きになった。 ガラスやシャボン玉は儚い命 時計は時間 髑髏は確実な死 熟れすぎた果物は衰退 物だけではなく、そこに意味を持たせて画家達は静物画を描いたと言うのが気に入った。 だから今。 ケイか描いているのは壊れて水の入らないガラスのコップとそこにかざられた花。 でもその花は鏡に写っている花だ。 虚像。 水の入ることのないコップ。 このままだと枯れてしまう花。 ケイはそこに自分を見ていた。 壊れたガラスのコップは今の状態だ。 それが良くはないのも分かってた。 ベータのフリをいくらしたところでベータにはなれない。 でも。 ケイは。 オメガでいたくなかったのた。 ケイは描き上がった絵をみてため息をついた ケイの絵は評価されている。 顧問はべた褒めだ。 高校は美術科に行こうと思っていた。 勧められているオメガやアルファの学校でなら、良い教育を受けられるのは分かっていたが、公立の美術科を目指すつもりだった。 まだベータでいられるだろうか。 ケイは唇を噛む。 背こそ女性より高いが、男性とも女性とも違うオメガの大人になってきているのはわかる。 ケイは昨日どうしても我慢できずに自慰をしてしまった。 指は後孔に伸びてしまった。 ペニスだけでは満足出来ず。 その孔で感じることが嫌なのに。 ケイは泣きながら、でも。 後ろの孔で達したのだ。 そこで感じるのは、ペニスより鮮烈だった。 2回した。 指を止めることが出来なかったのだ。 乳首も弄ってしまった。 そこが熱くなってしまうから。 それが辛かった。 気持ちよくて、オメガだと思い知らされて。 乳首は硬く凝り、孔はたっぷり濡れて滴っていた。 何度も声をあげてしまうほど、自慰は気持ち良かった。 そしてそれが嫌だった。 ケイはため息をつく。 何か絵を描かないと。 スケッチでもいい。 描いていたら、忘れられる。 ケイがスケッチを取り出そうと立ち上がった時、美術室のドアが開いた。 「すみません・・・入部希望なんですけど」 ハスキーな声かした。 そして、ぬっ、と入ってきたのは。 とにかくデカい男子生徒だった。 入部希望? こんな時期に? そしてこんな大きな生徒は2年にはいない。 そして3年ならもう部活は辞める頃だ。 つまり1年だ。 こんなデカい1年生? ケイは目を見張った。 180はあった。 そして、ボサボサの髪が顔を覆ってて、シャツもズボンからはみ出していて、シャツのボタンも飛び飛びにとまっていて。 信じられない位だらしなかった。 ケイに見つめられて、ソイツは固まった。 おそらく顔を赤くしているはずだ。 みんなそうなる。 ケイは慣れてた。 どうせこいつも。 ケイは諦めていた。 「いい絵ですね」 だが、髪で隠れていたから視線が分からなかったが、ソイツはケイを見ていたわけではなかったらしい。 ケイが描いた絵を観ていた。 「先輩が描いたんですよね。いいな、いい」 感嘆の声。 真っ赤になったのはケイだった。 ケイの絵を面と向かって褒めてくれた生徒いなかったから。 ソイツはケイに普通に話しかけてきた。 男の先輩に話しかける後輩みたいに。 そんなの何年ぶりだっただろう。 「うん。お前、転校生?」 ケイは聞いた こんな一年がいたら目立つはずだな、と思ったからだ。 それにこんな時期だし。 「そうです」 ソイツは頷いた。 ケイの絵から目を離さないままで。 ケイの絵を本当に良いと思ってくれているのがわかった ケイではなく、ケイの絵に興味があるのだ。 ケイはとてもうれしかった。 「よろしく」 ケイは久しぶりに笑った。 「キタノです」 ソイツは言った。 そのもっさりした身体ばかりデカい後輩、キタノとケイの初めての出会いだった

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