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第4話
ケイはキタノがすぐに気に入った。
それはケイだけではなかった。
デカい身体をいつも申し訳なさそうに縮めて歩いているキタノはおっとりした気のいい性格で、転校してきてすぐに学校の人気モノになった。
「愛されキャラ」というか。
キタノちゃん、キタノと男女問わず声をかけられ、親しまれる。
でもキタノの身体がもう少し小さかったなら、キタノはイジメられていたかもしれない。
気のいい大人しいヤツをイジめるのが大好きな連中はどこにでもいるからだ。
だけどとにかくキタノは大きくて。
13歳で182センチあった。
それこそアルファ並だった。
アルファなら2メートル近い体格は普通だから、13歳でもこの体格は有り得る。
だが、キタノにはアルファからのあの圧迫感はない。
大きな人懐っこい犬のような雰囲気がある。
もさっとした雑種犬みたいな親しみやすさだ。
それに大体アルファがこんなベータの中学には来ない。
アルファは小学生の内に別の学校へ通うことになる。
オメガより早く性別が早くわかるからだ。
10歳位にはもう専門の学校に行く。
理由は筋力と成長速度が違いすぎて、ベータの子供達とは一緒にはいられないからだ。
ケンカにでもなったら相手を殺してしまいかねない。
まだ未熟な子供の内はアルファはアルファの中で育つべきなのだ。
アルファではない家族とも離れて。
全寮制の学校に入る。
もちろん、オメガならアルファといても傷つけられることはないが。
アルファはオメガを不必要に傷つけたりなどしない。
それもアルファの本能だ。
だけどキタノはアルファみたいなのはその体格だけで、おっとりして、のんびりして、勉強もまあまあそこそこで。
親しみやすくて、天然で、愛されていた。
異様に身体が大きく、でもそのせいで心臓が悪いのだとキタノは体育等は見学だった。
ケイと同じように。
その体格から色んな運動部から残念がられたが、心臓が悪いなら仕方ないことだ。
ケイはそんなキタノに懐かれたのだった。
キタノは誰にでもそうするように屈託なく、ケイにも近付いてきた。
それは。
実に普通の男の先輩に対する態度で。
ケイはそれが嬉しかった。
キタノは静物画を描くケイとは違って、美術部の窓から動く人を素早くスケッチしていた。
動きを一瞬でとらえるのが好きなのだと。
スケッチブックを持ってグラウンドで運動部の連中を次々とスケッチもしていた。
そして、後で美術室でケイに求められるまま、それを見せてくれる。
キタノは肉体を僅かな線で捕まえることができた。
動いている肉体がそこにあった。
激しいエネルギーがそこにある。
「おまえ才能あるよ」
ケイは素直に思ったことを言う。
それを言われるとキタノは真っ赤になって大きな身体を丸めて喜んでいて。
それが可愛かった。
キタノは身体こそデカいが無邪気な13歳の、絵が大好きな少年で。
ケイもキタノといる時は、ちょっと偉そうな男の子先輩でいられた。
ケイは笑うようになった
キタノといると、女子部員達とも打ち解けた。
女子部員たちも親しくなってみれば粗雑なところもあるケイを、普通の男子として扱い始めた。
ケイとキタノしか男子部員は居なかったが、なんだかケイは、幸せになっていた。
ここではケイはオメガじゃなかったから。
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