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第5話

キタノ、キタノ!! ケイが呼ぶ。 キタノがニコニコしながら後ろからついてくる。 2人は山の中の小さな川に来ていた。 ケイは身体が悪い設定を忘れてはしゃいでしまい、駆けてしまいたくなる、 だが、キタノの心臓のことを思い気持ちを落ち着かせる。 静物画しか描かないケイだが、その夏休みはキタノと写生に出かけたのだった。 ケイは三年になっていた。 もう受験なので部活は引退だ。 ケイは、公立の美術科を目指すことにした。 まだ。 ベータでいたい。 いたいのだ。 キタノと出会ってからすっかり楽しくなったからこそ。 キタノといる時はケイは、ベータの男子の先輩後輩で、昔みたいに悪ノリをしたりふざけていられた。 キタノはニコニコしている。 いつだって。 ただ、最近キタノがたまにため息をついてるのをケイは気づいてた。 美術科を受けるケイは部活を隠退しても、美術室に絵を描きにきていた。 受験対策の絵をかくために。 だが最近キタノに元気が少し、ない。 何かに悩んでいるようだ。 開けっぴろげなキタノにしては、何も言わないのはおかしい。 ケイはキタノを心配した。 で、自分の気分転換、受験のための絵ではなく、好きな絵を描くために、と キタノが話しやすくなるかと思って、 山の中にキタノを連れ出したのだ ギリギリまでバスで行ける場所だか、キタノにも確認を取った。 それくらい歩くのは大丈夫、とキタノは笑った。 先輩とお出かけ初めてですね、と。 そういえばそうだった。 部室以外でキタノと会うのは初めてで。 でも、毎日のように一緒にいるから。 まあ、話しないで互いに勝手に絵を描いてるのが多いんだけれど。 帰りにファーストフードを食べて帰ったりもするが。 廊下で見つけて手を振ったり、窓から体育を見学してるキタノを見たり、いつでもどこかにキタノの存在を感じてきたから、一緒に遊びに行ったりしてないとは思わなかった。 メッセージのやり取りは毎日してるし。 気が付けば、キタノがいるのが当たり前になってた。 ケイは先に高校の美術科に行って、キタノが次の年来るの待つつもりだった。 また仲良く。 高校生活を送れる。 ケイはそう信じていた。 2人で来た小さな川は思っていた以上に良い感じで。 ケイは川の光の反射を描こうと思い、キタノは流れる水の動き描くのだと言った。 2人はだまって絵を描きだす。 それぞれの自分の世界にいるのに、でも2人は一緒にいたのだった。 ケイは。 それが嬉しかった。 時間がすぎ、2人で休憩をとる。 バスが最終6時に終わるから、それまでに帰らないとな、そうケイはサンドイッチを摘みながら思った。 キタノがサンドイッチはつくってきた。 キタノは料理が趣味なのだ。 2人しかいない川原は山の中のバス停から歩いて20分ほどのところにある。 キタノのスケッチをケイは見つめる。 水がうごいている。 キタノは動きを捕まえることかできる。 鉛筆や筆で。 その一瞬を キタノもケイのスケッチを感嘆して見ているから満足した。 ケイは1番キタノに認められたいのだ。 ケイはここでキタノに話を聞くことにした。 そのために連れ出したのだ。 「キタノ、お前、なんか悩んでないか?」 ケイの問いは直球だった。

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