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第6話
キタノはいつも眠そうに、そして笑ったままの形になってる目を見開いた。
その目に一瞬何かが蠢いた、静かな湖みたいな目の底からマグマのような何かがのたうった、ような気かした。
何故かケイの身体がビクリと震えた。
キタノ相手なのに。
だが次の瞬間それはいつもの穏やかな水面のようなキタノの目で、気の所為だったんたな、とケイは思った。
キタノは困ったように笑った
そして、頭を掻く。
そしてケイから目を逸らした。
ああ、キタノはケイには言う気がないのだ。
ケイは裏切られたような気持ちになった。
ケイはキタノのためなら何だってしてやるのに。
「オレには・・・言えないか?」
ケイの声には傷付く調子があっただろう。
キタノがますます困った顔をしたから
キタノが焦っていた。
ケイを傷付けたと思って。
「センパイ、ちがうんです・・・」
キタノがモゴモゴ言いながら、ボサボサの頭を掻きむしる。
ケイを傷つけたくないことだけはわかる。
ケイはキタノを困らせたかったわけじゃない。
キタノの力になりたかったけど、それを拒否されただけだ。
そんなのケイの勝手だ。
わかってる。
でも。
勝手に思い込んでいたけど、ケイはキタノが自分を信頼してくれているものだと。
センパイコウハイ以上に友達だと思っていたのだ。
今のケイにはただ一人の。
でも、キタノにはケイ以外にも友達は沢山いて、ケイはその中でもそれほど大したことのない存在だったのだろう。
ケイは自分勝手だな、と思いながらも傷付いていた。
いや、ケイに傷付く資格なんかないのに。
「センパイ・・・センパイ・・・違うから!!」
キタノはオロオロと両手を振り回す。
簡単にキタノに心を読まれてしまう。
そう、キタノには隠せない。
オメガであること以外は隠してない。
心を明け渡してる。
でもキタノは違う。
でもキタノは焦ってる。
そうだろう、キタノは優しいから。
ケイは自分が恥ずかしくなってきた。
こんな場所までキタノを連れ出して。
キタノは本当は来たくなかったのかもしれない。
すっかりキタノに好かれていると思い込んでいた、その思い込みを打ち砕かれたので、自信たっぷりだった自分が恥ずかしくてたまらなかった。
偉そうな先輩面して。
キタノにまとわりついて。
キタノに好きな時に電話して。
メッセージいれて。
好きなように話をして。
キタノは。
本当はどう思って。
思って思って思って思っ思っ思って思っ思っ思ってててててて
グラグラ、ケイの世界が回る。
ケイは逃げようとした。
恥ずかしさと怖さから。
走り出していた。
身体が弱い設定を忘れて。
ケイは駆けた。
怖くて堪らなかったから、ものすごいスピードで。
でも。
捕まった。
ケイを、大きな何かが捕まえて、暖かい何かで包まれた。
それがキタノの太い腕に捕えられ、その胸に抱きしめられているのだとケイが気付くのに時間がかかった。
「違うからセンパイ!!お願いだから、オレをしめださないで!!」
キタノのハスキーな声が耳元で響く。
心臓の悪いはずのキタノがケイを走って捕まえたのだ。
どうして?
ケイは戸惑っていた。
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