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第7話

「キタノ、お前心臓・・・!!」 ケイは真っ青になって言う。 「・・・・・」 キタノはなにも言わない。 ただ、黙ってケイを抱きしめてくる。 しっかりと抱きしめてられ、広い胸に顔を押しつけられ、ケイはキタノの心臓の音を聴く。 しっかりと脈打つソレは、速くはあっても、確かで力強かった。 「心臓が悪いなんて嘘です」 キタノが低い声で言う。 ケイを抱きしめながら。 「嘘をついてたんです。その他にも」 絞りだすような声は、苦しそうでもあった。 「センパイ、オレを嫌わないで!!!」 震える声でキタノが言う。 胸に押しつけられた顔を上に上げた。 キタノは泣いていた。 苦しげに泣いていた。 「キタノ・・・」 ケイは戸惑う。 嫌わないよ、そんな、 そう言いたかった。 でも。 何故だろう。 キタノに抱きしめられていて、怖い。 怖くてたまらない。 これはキタノなのに。 絶対に自分を傷つけないキタノなのに。 実は気の強いケイが怖がっていた。 身体の芯がキタノに怯えている。 コレは怖いモノだと言っている。 コレは。 コレは。 お前を喰らうモノだと。 ケイは不意に理解した。 キタノは。 アルファだ。 体格だけはアルファ並だな、と皆に笑われていたキタノは、ベータのフリをした、アルファだったのだ。 ケイからじゃれつくことはあっても、キタノはケイに自分から触れることはなかった。 こうやってキタノの肉体に包まれていると、ケイにキタノの肉体が何なのかがわかる これは。 アルファ。 オメガを欲しがるモノ。 「怖がらないで。何もしない。しないから。逃げないで」 キタノが懇願する。 14歳のアルファ。 アルファはベータやオメガより早熟だ。 アルファはベータやオメガとは全く異なる生き物だから。 14歳なら大人扱いになる。 まだ知識を学ぶ必要はあっても、肉体的精神的には成熟していると見なされる。 13でもう番をつくり子供を産ますアルファもいる。 その場合は相手は歳上のオメガであることが多いが。 だからこれは大人のアルファで。 そのアルファに抱きしめられていることはケイにとっては恐ろしくて。 そして恐ろしい理由も分かった。 オメガの本能が。 アルファを求めているのだ。 それはケイには恐ろしいことだった。 オメガとして生きたくないケイには。 大きなアルファ。 オメガを貫き、犯し、子供を産ます。 それを本能として持つ。 そしてそれを望むのはオメガの本能なのだ。 それはケイにはあまりにも醜悪で。 ケイは自分にも恐怖した。 ケイは悲鳴を上げて、キタノから離れようとした。 何もかもが恐ろしかった。 「センパイ、センパイ、オレだから。オレ!!」 キタノはケイを抱きしめたまま、離さない。 ケイは泣き叫びさらに逃げようとする。 「嫌わないで!!」 キタノの悲鳴が聞こえた。 殺される前の人間があげる声だった。 ケイは悲鳴を止めた。 そして。 気づく。 コレはキタノだ。 キタノ。 ケイのただ1人の友達。 たった一人の。 「嫌わないで・・・」 キタノが泣いていた。 それは。 間違いなく14歳の少年だった。 ただの。 大事な人に嫌われるのを恐れる、少年だった。

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