13 / 23
第13話
「カプセルを取り出した。これでホルモンの状態が変わる。半年ほどは安定しない可能性もある。常に緊急用の抑制剤を持ち歩くこと。そして、何があるかわからないから、アルファには出来るだけ近づかないこと」
その日が着て、処置が終わり、医師はケイに言った。
ケイは頷く。
20才のケイはオメガとして大学に通っていた。
もう流石にベータの男性では通らない。
オメガはオメガなのだ。
美しいオメガ。
中性的な男性ではもうとおらない。
一方キタノは相変わらずアルファ並にデカいだけのベータとして同じ大学に通っていた。
アルファ独自の威圧が全くないため、キタノはなんとかベータで通る。
人がアルファにまず感じるのはその威圧だからだ。
支配者だと知らしめられ、後ずさる。
「休学した方が良いんだけとね。様子を見るために」
医師は溜息をつく。
ケイは首を振る。
オメガだからと言って人生を諦めたくない。
ケイは学生ながら個展を開き、ケイの絵を買う人達も出てきたところだった。
ケイの描く静物画は評価されていて、ケイの個展に足を運ぶ人達は若い人達も多い。
ネットで評判になったのだ。
静物画に意味を込めるというネット番組で紹介されたのがキッカケだった。
静謐さと孤独があるケイの絵を好む人達は多かった。
時代の流れだろう。
一方キタノは動きやエネルギーにこだわる作品を絵画に拘らず創り続けていて、キタノはキタノで評判になってかきている。
キタノの方が若者には人気だ。
そのぬぼぅとした外見もふくめて。
熊とか大型犬とか言われて、その垢抜けなさも含めて愛されている。
「でも。良い身体してるし、セックスしたらすごいのかも」
女の子達がこっそり囁いているのをケイは知ってる。
ヨレヨレの服の下にある、隆々とした筋肉は隠しきれなかったし、ボサボサの髪の下にある男らしい顔も分かる人にはわかる。
実はそういう意味でもキタノが人気があるのもケイは知ってる。
キタノの周りの女の子達にヤキモチを焼いていたのは内緒だ
キタノはだれにでも優しいのに。
ボサボサの髪の下にある、いつも笑ってるような顔が、欲情した時どれだけ雄の顔になるのかなんて、女の子達が知るのは許せないとも思ってた。
怖くてたまらない顔。
でもいまだにケイの穴を疼かせるあの目が他の女やオメガに向かうなんていやだった。
ケイは。
キタノを想いながら自慰をすることが止められない。
今だって。
二人きりでいる時、キタノが焦がれるかのように自分を見つめる目を前髪をかきあげて見つめたいと思い、でもそうなると怖くなってしまう。
すると察したキタノはそっと目を逸らす。
それが寂しくて、でも、安心する。
良い後輩、良い友人としていてくれるキタノに安心しながら、ケイは毎晩のように自慰をしていた。
キタノをおもって。
なん年も。
そしてとうとうカプセルが取り出され、ケイは複数の抑制剤を定期的に飲むことになる。
ケイは怯える。
こらからはヒートが来る。
今までの欲情とは桁違いの、本能が要求するオメガの欲求だ。
「自慰だけじゃ収まらない。ベータのボーイフレンドがいるならセックスしてもらいなさい。少しは紛れる。抑制剤はフェロモンを抑えて、眠りがちにするだけで、楽にしてくれるものじゃないから。最低でも3日は苦しいよ」
オメガの医師のアドバイスはあけすけだった。
「アルファに射精してもらったら、楽になる。飢えみたいなのが満たされる。でも妊娠しないように抑制剤は飲んでね。望まぬ妊娠はだめだから」
そうとも言われ、やはり番をつくることを勧められた。
そうした方が生きやすいのはわかってた。
「アルファは確かに君を自分のモノだと思うけど、オメガに愛されたいと願うのはアルファの本能だから、君の創作活動を邪魔するようなアルファはいないと思うよ。可哀想なくらいさ。必死になるよ。愛されたがって」
医師はいう。
オメガでありながらキャリアを築き続ける医師がいうと説得力がある。
もちろん、この医師にも番のアルファがいる。
「執着してるのはアルファだけど、支配してるのは
オメガとも言えないのこともない。番をコントロールすればいい。飼い犬だと思って」
医師は歯に衣を着せない。
「番のアルファを愛してるないんですか?」
ケイは聞く。
「まさか。可愛く思ってるし、大切だし、必要だよ。だけど、別れられない関係になってる以上、もう愛とはいえないな」
クールに医師は笑った。
そう。
アルファは番を絶対に手放さない。
手放すくらいなら殺す。
それくらいアルファの自分の番にたいする執着は凄まじい。
そういう生き物なのだ。
「番と別れるのは死ぬ時だけだ。それはまで離してもらえない。だからせいぜい良好な関係を築くさ。何より、セックスはアルファじゃないと満足できないのはこっちも同じだしね」
医師はケイをその冷静な目で見つめた。
それはオメガがアルファを支配しているようなもの、とはいえない、とケイは思った。
離れたら殺されるのだから。
「ヒートは、発情は君が思ってるよりツラいよ。アルファが嫌ならベータとセックスしなさい。少しはマシになる。これは医師としてのアドバイスだ。ベータと結婚しているオメガもいるし、ベータ結婚しているアルファもいないわけではない。でもヒートやセックスの問題はみんなそれぞれの方法で解決してる。綺麗なだけの方法はないんだよ」
医師の忠告がどれだけ本気なのかがわかった。
それほど。
ヒートはツラいのだ。
それでもケイは。
どうしても。
どうしても。
その忠告を受け入れられなかった。
キタノが本当にベータだったなら。
ケイはキタノに抱かれただろう。
他の女の子に渡したりなんかしないで。
ケイは俯くことしか出来なかった。
ともだちにシェアしよう!