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第18話

ケイは流れる光を絵に反射させていた。 果物に突き刺さる大きなガラスの破片。 そこから滴る果汁。 何を描いてるのか自分で気付いてしまってケイは顔を赤らめた。 こんなの。 セックスじゃないか。 絵にそういう意味を込めたことは何度もある。 でも、バラバラに刻まれた薔薇を描いたのはやりすぎだと思った。 この薔薇はショウだ。 キタノに見られたならはずかしくなる。 隠そうとする前に見つかってしまった。 キタノの目は飢えたようにケイの描きかけの絵を見る。 何も言わない。 「出来上がりがたのしみです」そうとだけ言われた。 なんか嬉しそうだった。 ケイの嫉妬が嬉しいのだ、と分かってしまってケイはキタノの方をみないまま、 「うん」 と言った。 そっと近寄られ、耳許に囁かれるキタノのハスキーな声。 「先輩だけです」 その声に、ケイの内部が疼いた。 「うん」 小さな声で答えて俯く。 キタノは珍しく遠慮がちにケイの髪に少しだけ触れた。 「先輩だけ」 吐息のようにもう一度囁かれて。 声が中を刺激する。 ケイは震えてしまった。 こんなの。 セックスじゃないか。 怖がる前にキタノは離れた。 いつもの笑った目のキタノでそこにいてくれる。 「うん」 涙目で見つめてしまう。 キタノはそれ以上触れなかった。 それ以上そこにもいなかった。 これは少し危険だったから。 「何か飲み物を買ってきますね」 キタノは立ち去る。 ケイはホッとした。 キタノが好き。 好きだけど怖い。 けど信じてる。 どうしよう。 どうしたらいい? キタノはこのままで良いと言ってくれてるけど。 悩みながらまた絵に向かっていた。 しかし、すぐそこにある自販機に向かったはずのキタノがいつまでたっても帰ってこない こんなことは初めてで、ケイは不安になった。 ケイはアトリエの外に出てキタノを探す。 自販機の近くまできてもキタノはいない。 どうして? ケイはウロウロとキタノを探す。 アトリエの隣の小さな倉庫代わりの部屋から呻き声がした。 獣の唸り声。 背筋がゾワリとした。 だけど、だからこそ、ケイはその部屋のドアを開けた。 その獣が何なのか分かっていたからだ。 そこに、一糸も纏わない美しいオメガのショウと、歯をむき出し、獣のように唸り、でも部屋の隅で蹲るキタノがいた。 ショウの腕からは血がながれ、カプセルが取り出されているのがわかる。 ショウもキタノも発情していた。 「本当にアルファだったんだ。・・・欲しい欲しい・・・」 ショウがキタノに脚の間を濡らしながら近付いていく。 「来るな!!」 強い薬を投与されて居るおかげか、なんとか理性を保っているキタノはさけぶが、ショウが近づく度に、殴られたようなショックを示す。 ケイは気づく。 このままだと、ショウをキタノは抱いてしまう。 そして、ショウは番防止の輪さえつけていなかった。 だめだ。 絶対にだめだ。 ケイはシャウに背後からしがみつき、キタノに近づけさせないよう引き倒した。 そしてケイは常に持ち歩いている緊急用の抑制剤をショウに打った。 そして、床に落ちていた服と共にショウを部屋の外へと突き出して、部屋に鍵をかける。 自分にこんな力があるとは思えなかった、凄い力だった。 欲しいアルファを求めてショウがドアを叩いているけど、その内薬が効くはずだ。 なにしろ、緊急用だ。 身体への負担はすごいが確かに効く。 3日は吐いて食事もとれない。 「早くここから出て行って下さい。先輩も」 キタノが呻く。 キタノはまだ発情したままだ。 オメガのフェロモンに当てられたなら、そう簡単にはおさまらない。 「お願いです。今の俺の前にいないで」 キタノはギラギラした目でケイを見ながら言う。 ガチガチ歯を鳴らし、震えて、自分を押え付けるように抱きしめている。 耐えている。 耐えてくれてる。 発情しているのに。 「キタノ」 ケイは。 ケイは。 決めた。 やっと決めた。 「ごめん。本当にごめん」 ケイは自分から服を脱ぎ捨てていく。 「先輩・・・なんで?」 キタノが困惑し、また唸る。 「オレは。オレがお前を支配したかったんだ」 ケイはそう言って、キタノの前に立つ。 裸のままで。 ケイはキタノに向かって腕を伸ばした。 獣になったキタノが、それでも涙を流しながら、ケイに飛びかかってきた。 ケイは。 それを受け入れた。 どんなに恐ろしいことよりも。 キタノを奪われることの方が恐ろしかったから。

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