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第7話 旅の始まり 其のニ
魔妖が神格化し、天に召し上げられたものを天妖という。魔妖特有の妖気は備わっているが、神格の証でもある神気も身に纏い、思慮も深いことから、人々から畏れ崇められている存在だ。
だが、その身の大きさと特徴から一度目にしてしまうと、よほどの剛の者でない限りは恐怖を感じ、逃げ出してしまうだろう。
天妖は人を襲うことをしないとされている。
だが、天妖の妖気に触発された魔妖や獣の活動が活発化し、人を襲う可能性が充分にあった。
人は恐怖を感じ団結すると、神すらも自分達の害を成すものだといって排除してしまう生き物だ。
天妖も流通を阻害するものと判断され、狩られてしまうだろう。
(……そうなる前に、何とか天に帰ってくれればいいんだけどな)
天妖といえども、天に住まう同胞だ。同胞が狩られたなどと、そんな話誰が聞きたいだろうか。
竜紅人 は幾度目かのため息をつく。
「ま、とりあえず情報収集だな」
香彩 と療 に向かって、竜紅人が言う。
そうだねと返す療に対して、香彩は未だ俯いて思案顔だ。
ふと、香彩が顔を上げた。
「──探してるんだと思う」
竜紅人を見ている様で、その向こうの何か……別の物を見ている様な表情で香彩が言う。
はっきりとした口調で、断定の言葉を口にする彼に、竜紅人は目を見張った。
「……それは、縛魔師の直感、ってやつか?」
「うん……なんとなく、そう感じただけなんだけど」
それはまさに『直感』なのだろう。
一度感じ取ってしまえば、こうなのだと断言出来てしまえるくらい、縛魔師の直感は真実に近いところで閃くことが多い。
「俺と療の話を聞いていて、感じたことだろう? なら『探し物をしている』情報は濃厚になったってことだ」
確実ではないが、香彩の直感も否定出来ない。
何より『探している』のであれば、鵺は当然移動するのだ。あまりゆっくりは出来ないが、人である香彩がいるため、無理はできない。
竜紅人は街道の先を見据える。
街道は時折、なだらかで大きな草原の丘で、道の先が見えなくなる。だが丘を越えた先には街が、遙か先には大きな森が、そして更に先には聳え立つ山脈がある。
鵺が堕ちた国境は、南の山脈の中だ。
街道さえ逸れなければ、比較的安全に目的地に辿り着ける。
日中に進む形を取ると、大人の足で約三日。まだ子供の香彩のことを考えると、五日は見ておいた方が良いなと、竜紅人は心内で考える。
(……香彩の言ってることが正しいのなら、もっと時間はかかるかもしれないが)
最終的には街や行き交う旅の者や商人に、そして自身が持つ情報網を頼りに、鵺に辿り着くしかないのだ。
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